「金星」の火山が1990年代に噴火した新たな証拠を発見! 確認されれば太陽系3例目の天体に
■金星の新たな溶岩流の痕跡を発見!
Sulcanese氏らの研究チームは、1990年代に金星の火山が噴火した可能性を示す新たな証拠を示しました。今回の研究と前章で触れた2023年の研究は、どちらもNASAが打ち上げた金星探査機「マゼラン」のレーダー画像を元にしています。金星の分厚い大気と雲は、様々な波長の光を吸収・反射するため、ほとんど地表を見ることはできません。しかし、電波は大気を通過して地面で反射される(後方散乱される)ため、レーダーを使用すれば地表の様子を撮影可能です。また、電波の反射強度からは岩石の組成といった物質の構成がある程度分かります。 ただし、マゼランの運用から30年以上経ってようやく研究が行われたことからもわかるように、この種の研究は難しさを伴います。まず単純に、レーダー画像は他の電磁波と比べると画質が荒く、得られる情報が少ないため、あまり解像度の高い研究は行えません。30年前の探査機に搭載されたレーダーは、現代のレーダーと比べればどうしても性能が低くなります。加えて、同じ地域を撮影したデータでも、電波が照射された角度は撮影したタイミングによって異なります。すると、反射される電波の性質も変化するため、仮に全く同じ地形を撮影したとしても、見た目には異なるレーダー画像として写ってしまいます。 したがって、比較研究を行うためにはこれらの違いを無くすための補正が必要となります。これを膨大な観測データに対して行うのは時間がかかる作業となります。
それでもSulcanese氏らは活火山があるかもしれない地域を探索し、ついに有力な候補の発見に成功しました。それは高さが2200mある火山「シフ山(Sif Mons)」の西側斜面と、多数の火山が見られる「ニオベ平原(Niobe Planitia)」の西部地域です。1990年と1992年に撮影されたレーダー画像を比較したところ、電波の強度が上昇している場所が見つかりました。これは、1990年から1992年の間に電波の強度を高める物質、例えば噴火して固まった溶岩流に由来する、新鮮な岩石の存在が考えられます。 ただし、風の影響で新たに堆積した砂丘や、電波に干渉する大気の影響なども電波の強度を高める原因として考えられるため、これだけでは火山の噴火の証拠とは言えません。そこで、Sulcanese氏らは地形データをもとに斜面の配置や角度をモデル化して、溶岩流であることと矛盾しないかどうかを調査しました。その結果、新たに発生した地形は、斜面を下る溶岩流で形成された可能性が高く、他の理由である可能性は低いことが分かりました。 新たな溶岩流は、平均3~20mの厚さで地面を覆ったと考えられます。また、噴出したマグマの合計量は、シフ山で0.09~0.6立方km (9000万~6億立方m) 、ニオベ平原で0.135~0.9立方km (1億3500万~9億立方m) であると見積もられています(※5)。