安易に考えるべきでなく、誰にでも勧められるものでもないが──「やはり凍結してよかった」当事者となった国会議員の体験から #卵子凍結のゆくえ
利用者にとって有益な法律や制度の確立を
政府は昨年12月、不妊治療への保険適用を22年4月から実施する方針を固め、以後、具体的な適用範囲の検討などを進めてきた。そうしたなか、塩村さんは、立憲民主党の「生殖補助医療プロジェクトチーム」と「不妊治療等に関するワーキングチーム」の一員として、今年6月、その制度設計についての具体的な提言を厚生労働省に提出している。提言の中には「カウンセリングを保険適用のパッケージとして導入するよう検討すること」とあるが、ここには先の産婦人科医の言葉を聞いた塩村さんの経験が込められているという。 塩村さんは言う。 「不妊治療の苦しさには大きく三つあると思っています。金銭的負担、身体的負担、精神的負担です。金銭面は、保険適用によってそれなりに軽減でき、身体面も、痛みという意味でいえば麻酔などの技術で対処できる部分がある。ただ、精神面の苦しさは依然大きいと感じます」 卵子凍結においては、当事者の精神的負担の原因の一つとなるのはやはり、わからない点が多いということではないだろうか。正確な情報がない中で選択を迫られることの不安感は想像に難くない。その状態が改善されるためには、ルールが明確になり、データが蓄積され、広く共有されることが必要だ。東京大学の神里准教授は、参考となりうる例としてイギリスのシステムを挙げる。 「イギリスでは、不妊治療を実施する医療機関は、公的機関からのライセンスの取得が義務づけられ、すべて公的な枠組みの中で行われています。ただし自由度は高く、幅広い治療が認められています。そうすることで、質を保証するとともに治療の成績などのデータをしっかり取る。信頼が担保されるとともに、新たな研究にもつながる仕組みになっています。日本もそのような仕組みを取り入れるべきだという声は、有識者からよく出ています」 日本も、卵子凍結を含む不妊治療全般について、利用者にとって有益な法律や制度の確立が必要だ。その際、塩村さんのような当事者が制度を作る側にいることの意味は大きい。不妊治療への保険適用が来年4月から始まるのを機に、法整備に関しても広く議論が進んでほしい。今後どのような枠組みができていくのか、注目したい。 --- 塩村あやか(しおむら・あやか) 1978年、広島県生まれ。参議院議員(立憲民主党所属)。共立女子短期大学卒業後、オーストラリアへの留学、放送作家を経て、2013年に世田谷区から東京都議会議員選挙に出馬し当選。東京都議会議員を1期務める。その後、2017年10月には衆議院議員選挙に無所属で出馬し落選するが、2019年7月、参議院議員選挙(東京都選挙区)に当選し、現在に至る。動物愛護や不妊治療の問題に長く取り組んでいる。 近藤雄生(こんどう・ゆうき) 1976年、東京都生まれ。大学院修了後の2003年、ライターとしての道を模索しつつ妻とともに日本を発つ。5年以上にわたって各国で旅・定住を繰り返しながら、月刊誌や週刊誌にルポルタージュなどを寄稿。2008年に帰国。著書に『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)、『吃音』(新潮文庫)、『遊牧夫婦』(ミシマ社、角川文庫)、『オオカミと野生のイヌ』(エクスナレッジ、共著)など。理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。