安易に考えるべきでなく、誰にでも勧められるものでもないが──「やはり凍結してよかった」当事者となった国会議員の体験から #卵子凍結のゆくえ
採卵の日が来た。7個の卵子を採取でき、凍結した。当時を思い出して塩村さんは言う。 「実際に卵子凍結を体験してみると、体への負荷も精神面での大変さも、想像していた以上でした。決して簡単なことではないということを実感しました。一方、卵子を凍結したことで、一つの安心が得られたという気持ちにもなりました」 塩村さんは2019年に、参議院議員選挙に立候補して当選を果たす。そして自身も不妊治療を続けながら、国会議員としてその問題に取り組んできた。治療費用の公的補助の拡大や保険適用、また、仕事と治療を両立しやすくするための休暇制度の必要性などを訴えてきた。 しかし一方、そうした中、塩村さんは思わぬ事実を知ることになる。凍結した卵子が妊娠につながる確率は決して高いものではない、ということである。 「凍結した卵子は、使うときに融解して、受精させて“胚盤胞”という状態にしてから子宮に戻すことになるのですが、融解した卵子を胚盤胞にするのは決して簡単ではないようなのです。私はそのことを、卵子を凍結したときはちゃんと理解していませんでした。その後、東京で不妊治療を続ける中で医師から聞いて知り、驚いてしまいました」 卵子を凍結したことによって得た安心感のようなものは、決して思っていたほど頼れるものではなかったことを、後になって知ったのだ。
「簡単には勧められない。でも、してよかった」
しかしこれは、決して塩村さんに限ったことではないのかもしれない。というのも、卵子凍結についてよく知ることは、そう簡単ではないからだ。 たとえばインターネットで検索すると、卵子凍結を行っている医療機関等のサイトは複数見つかるが、凍結保存することのリスクやデメリットについては必ずしも詳しくは書かれていない。メリットや治療手順についての説明の後に多少触れている程度という場合が少なくない。また、凍結保存した卵子を融解した後の生存率、受精率、妊娠率など様々な数値があげられている場合も、結局どれくらいの期待をかけていいのかは読んでもなかなか見えてこない。そのうえ、それらの各数値自体が、医療機関によって参照元や根拠が異なり、幅があるのだ。融解時の卵子生存率なら、90%以上とするところもあれば、40~70%と言われる、と書いているところもあるという具合だ。この点に関連して、生命倫理政策を研究する東京大学医科学研究所の神里彩子准教授は言う。 「現在の日本では、法律や制度がないため、公的な統計が取られていません。これまでにどのような施設でどのくらい卵子凍結が行われているのかもわかっていないので、成績について参照できる公式のデータや数値はないのです」