働き方改革対応と遠隔ICU導入で救急体制も維持―横須賀市民病院が地域医療を守る戦略
人口の都市集中が進むなかで、都市周辺部の医療レベルをいかに維持していくかは、今後の社会の在り方を設計していくうえで大きな課題の1つだ。高齢化が進む地域ではどのような医療が求められるのか、人口減少が進む地域にどれだけの医療提供体制を維持するか――。医師の働き方改革への対応と遠隔ICUの導入で救急医療を維持している神奈川県の横須賀市立市民病院(以下、横須賀市民病院)は、これからの地域医療のモデルケースの1つといえる。病院管理者の関戸仁先生に、医療体制維持のための戦略を聞いた。
◇遠隔ICUで人材のレベルアップも
「遠隔ICUを導入していなければ、当院のICUは閉鎖するしかなかったでしょう」と関戸先生は振り返る。 神奈川県南東部の三浦半島西側に位置する横須賀市民病院は、2024年3月から「遠隔ICU」を導入した。中心となる医療機関と複数の病院の集中治療室をネットワークでつなぎ、集中治療専門の医師などが患者をモニタリングして遠隔で現場の医師らに助言をする。2019年から、横浜市立大学附属病院(以下、市大病院)の支援センターと横浜市内の3病院との間にシステムを構築して開始した事業に、横須賀市民病院が新たに加わった。 横須賀市民病院の4床のICUは全て市大病院とつながり、心電図や脈拍などのデータが共有され電子カルテも市大病院の医師、看護師が閲覧できるようになっている。通常、平日は毎朝行われる、入室中の患者に関するカンファレンス(関連するスタッフが情報共有や共通理解を図るための会議)に市大病院集中治療部の医師も参加。場合によっては人工呼吸器の設定について指導を受けたり、輸液の調整についてアドバイスをもらったりする。カンファレンスでは、主治医に代わって看護師が説明することもある。 これまで発生してはいないが、患者の危険な兆候を市大病院側のモニターで発見した場合に指摘を受け、大きな合併症などを未然に防ぐことができるといった「医療安全」への寄与も期待されている。 遠隔ICU導入にあたっては、新たな機器の整備や院内設備の改修などで億単位の初期費用がかかるほか、回線の維持費などのランニングコストも必要だ。ただ、市大病院の遠隔ICUは厚生労働省の補助事業の一環で始まり、横須賀市民病院に関しても看護師の働き方改革や業務量調査にデータを利用することになっているため、初年度経費の一部はAMED(日本医療研究開発機構)医工連携・人工知能実装研究事業の研究費で賄われたという。 もう1つ、ICU維持が可能になった背景に、2024年の診療報酬改定で特定集中治療室管理料の大きな改定があったことが挙げられる。「治療室内に配置される専任の常勤医師」の中に「宿日直(後述)を行っている医師」が含まれる区分(特定集中治療室管理料5・6)が新設され、専任の宿日直許可を得ている医師を配置することで施設基準を満たすとみなされるようになった。 遠隔ICUの開始から約3カ月が経過し、関戸先生は実感として「医師はもちろん、ICUの看護師も含めてレベルアップにつながっている」と話す。ただ、今のところ遠隔ICUに前向きな人ばかりではなく、2、3歩離れて様子見をしている職員もいることが1つの課題だという。遠隔ICUは地域で高度な医療水準を維持するカギになり得ることから、県内外の病院や行政関係者の視察も相次いでいるという。