働き方改革対応と遠隔ICU導入で救急体制も維持―横須賀市民病院が地域医療を守る戦略
◇「働き方改革後」も変わらぬ体制
2024年4月から始まった医師の「働き方改革」で時間外・休日労働に上限規制が課せられ、一般の労働者同様に、年間960時間(月80時間相当)を超える時間外労働が制限される(一部例外あり)。だが、横須賀市民病院は長い時間をかけて準備を進めてきた結果、4月以降も従前と変わらない体制で診療を続けているという。 2011年に設置した「医療従事者負担軽減検討委員会」を2023年6月に「働き方改革推進委員会」に名称変更。それに先立ち、2022年7月から具体的な働き方改革対策の検討を開始し、医師会や行政、社会保険労務士と意見・情報交換を進めるなどした結果、2023年3月までに全ての診療科で「宿日直許可」を獲得することができたという。 「宿日直」は宿直と日直を合わせた言葉で「夜間もしくは日中に、ほとんど労働する必要がない勤務」を指す労働基準法上の言葉だ。宿日直の医師は診療時間外の医療機関で待機し、少数の要注意患者や軽症の外来患者、かかりつけ患者の状態変動などに対応するために診察や看護師などへの指示・確認を行うといった軽度または短時間の業務にあたる。基準を満たして労働基準監督署長の許可を得た場合には、宿日直の時間は労働時間規制の適用除外となって労働時間としてカウントされず、勤務間インターバル(勤務と勤務の間の休息時間)規制で休息時間として取り扱うことができるようになる。 一方で日直は1カ月に1回、宿直は1週間に1回の回数制限がある。「その範囲内で回せるだけの医師をどうやって確保するかが体制維持のカギになります」と関戸先生。 4月以降、大学からの非常勤医師派遣の際、医局から宿日直許可を得ているか確認され、なければ派遣はできないと忠告されたという。横須賀市民病院が働き方改革以降も体制を維持できた最大の要因は、事前準備によって宿日直許可を得ていたことだ。
◇広がる「急性期病院が必要」の認識
横須賀市民病院は三浦半島西部地区の中核的な病院の役割を担い、横須賀市だけでなく三浦市、逗子市、葉山町、鎌倉市やその周辺などからも多くの患者を受け入れている。横須賀市民病院の医療圏ではかつて、少子高齢化と人口減少で「急性期病床に余剰がある一方で、回復期医療や回復期リハビリテーション病床が不足している」との指摘があったという。これに対して関戸先生は「私が院長に着任した3年前には急性期病床を減らす方向だったようですが、今は余っているという認識はありません。近隣のいくつかの病院ではほとんど救急車を受けられなくなっています。医療圏はある程度広く、もし当院が受け入れなくなると『地域の救急医療が大変なことになる』と、救急隊員などから聞いています。今はこの地域にも急性期の病院が必要だと、行政や他の病院から認識をいただている」と現状を説明する。 10年ほど前に横須賀市立うわまち病院との間で公的医療の役割分担を見直し、産科と小児科はうわまち病院に統合する一方で横須賀市民病院は三浦半島西地区の救急、消化器、脳血管、循環器の各疾患治療に注力することになった。脳卒中や心筋梗塞などは治療開始まで時間がかかるほど命の危険が増したり、後遺症が重くなったりする懸念がある。そのため、一定のエリア内に救急患者を受け入れられる施設が必要になる。高齢化でこうした病気の治療ニーズは増加が予想されることから、「今後もそれらは当院の果たすべき役割だと思っています」と関戸先生は言う。 救急ではマンパワーの確保が大きな課題だ。横須賀市民病院では研修を終えた診療看護師*が2023年4月から働き始めたことに加え、遠隔ICUの導入、特定行為看護師**の配置もあって現場のレベルアップが期待されているという。 *診療看護師(NP, nurse practitioner):医師や多職種と連携・協働し、医師の指示の下、一定レベルの診療を行うことができる看護師。5年以上の実務経験後に大学院修士課程を修了し、資格認定試験に合格することが求められる。 *特定行為看護師:医師の指示のもと、手順書に基づいた一一定の診療の補助(38行為)を行うことができる看護師。厚生労働大臣が指定する指定研修機関で必要な研修を受講し、終了証の交付を受ける必要がある。