歳をとることは不幸か、幸福か?ありのままに生きる…高齢化とは幸せなこと
人口が減少し、社会の成長が見込めない時代といわれます。一方で、科学技術の進化が、高齢化の進む日本の未来を、だれにとっても暮らしやすい社会に変えるのではないかともいわれています。わたしたちは一体どんな社会の実現を望んでいるのでしょうか。 幸福学、ポジティブ心理学、心の哲学、倫理学、科学技術、教育学、イノベーションといった多様な視点から人間を捉えてきた慶応義塾大学教授の前野隆司さんが、現代の諸問題と関連付けながら人間の未来について論じる本連載。10回目は「歳をとることは不幸か、幸福か?」がテーマです。 ----------
老いは生活満足度・幸福度の上昇
みなさんは、老年的超越という概念をご存知ですか? 今日は、年齢と幸せの関係についての話をしようと思います。 内閣府の「国民生活に関する世論調査」の結果の一部を図1に転載します。生活満足度は、幸福度を測るためのひとつの有効な指標であることが知られていますので、年齢とともに幸福度がどのように変わるか、のグラフといってもいいでしょう。 図より明らかなように、年齢と生活満足度の関係はU字状のカーブを描くことが知られています。だいたい40代あたりが底と言われていますが、このグラフでは、1980年代は30代が底だったのに対し、2010年代には50台が底と、Uの字の底になる年代が時代とともに変化しているように見えます。 40代前後が底になるのは、会社でも中間的な立場、家庭では子育てが大変であるなど、苦労の多い時期だからではないかと言われています。 言い換えると、若年層と高齢者は幸福度が高いといえそうです。しかも、若年層よりも高齢者の方が高い傾向があります。 本稿では、ここに注目したいと思います。 仏教では、生老病死といいます。生まれて来た者は必ず老い、病い、死という苦を経験するのだという意味です。ところが、このグラフを見ると、老いは苦どころか生活満足度・幸福度の上昇であるように見えます。これはどういうことなのでしょうか。