日本軍兵士の多くは餓死や自決、ときには「処置」も――死者からわかる戦争の実像 #戦争の記憶
上官の他界後、実態が明らかに
また、戦後40年50年と経つなかで、上官が他界していくと、部隊内の「いびり」など不条理な実態も赤裸々に明かされるようになった。実利的な問題もあった。 「捕虜になった場合、その期間軍務に就いていたとはみなされない。そうなると軍人恩給が支給されないかもしれないと考え、捕虜時代のことを黙っていた人もいました」 そうした元兵士たちの記録を吉田氏は丹念に読み込み、2017年に『日本軍兵士』(中公新書)という本にまとめた。21世紀に入る前後から、高齢化に伴って全国の戦友会の解散が始まりだし、しっかり伝えていかないと元兵士たちの苦悩は忘れられてしまうという焦燥感があったという。 「もともと私が戦争研究をはじめたときの中心テーマは戦争犯罪という加害側の問題でした。そして、私だけでなく多くの研究者が日本の兵士たちの実情を伝えてこなかった。でも、2000年頃から無残な死を遂げた兵士たちのありようを書き残しておきたい気持ちが強くなっていった。処置にしても特攻にしても海没死にしても、知れば知るほど絶望的な気持ちとなる。ただ、記すにあたっては、告発調にしたくなかった。研究の過程では、胸が締めつけられる思いを何度もしましたが、あえて距離を置いて、彼ら兵士から見た事実を把握しようとしました。先の戦争で日本軍兵士が何を見て、何を経験したのか、まだ知られていないことは多いのではないかと思います」 ―― 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞