BMW R1300GSアドベンチャーをイギリス人レーサーが斬る「30Lタンクの巨体で攻めの走りができる…そのシャシーと電子制御に驚愕だ」
航続距離600km超
試乗会2日目はスペイン最南端にあるタリファからマラガまでオフロードを走り、水平線の向こうにアフリカ大陸を眺めながら海岸沿いを行く。そんなロマンチックなツーリングはすぐに終わり、高速道路で長距離を移動することになった。 数百マイルの距離を効率よく、ストレスなく、快適に走り続けたいなら、R1300GSアドベンチャーは最高のバイクだ。大型スクリーン、コンフォートシート、DCC(ダイナミッククルーズコントロール)が装備されていれば、どこまでも快適なまま走っていける。ただシートにまたがって、燃料ランプが点灯するのを待つだけだ。 R1300GSアドベンチャーの公称燃費は20.4km/Lで、理論上の航続距離は612km。誰が見てもかなり長い給油間隔でだ。テストライド中は17.5km/Lだったが、オフロードでは2速と3速だけを使って、ファンライドのためにテールスライドして酷使したことを踏まえれば決して悪くない数字だ。 燃費を意識して走れば、公称燃費は十分に達成可能だろう。試乗中、ダッシュボードの航続可能距離は時に650km以上を示していたから、理論的にはランズエンドからジョン・オ・グローツまでの全長およそ1347kmをたった一度の給油で走破可能だ(註:ランズエンドはイングランド最西端、ジョン・オ・グローツはスコットランド最北端の村。あえて日本で例えるなら、本州の最西端と最北端)。 トロフィー(GSスポーツ)仕様のスクリーンはやや小ぶりだし、エンデューロシートは硬めだから、そうした長距離を走るならツーリング仕様が適しているだろう。しかしそれは些細なことで、国全体をまるごと旅するなら、この巨大なR1300GSアドベンチャーは最高のパートナーだ。
BMW R1300GSアドベンチャー総合評価
BMWはこれまでもアドベンチャーという強力なモデルで成功を収めてきたし、R1300GSアドベンチャーもその前例から外れない。これはR1300GSに大型燃料タンクを取り付けただけのバイクではないし、従来のアドベンチャーモデル以上に、独自の個性と魅力を備えている。まだ写真でしか見たことのない人は特に信じてほしいのだが、実車のルックスはかなり見栄えする。 BMWは独自の路線を進むことを好み、GSというアドベンチャーモデルで成功を収めた。そのデザインと走行性能、利便性に優れる機能、豊富なアクセサリーのラインアップに対する深い考察と設計力は賞賛に値する。フォロワーともいえる他メーカーのアドベンチャーモデルとは一線を画す。 確かに、初めてこの巨体を目の前にすると圧倒される。しかし、ハードなオフロードから国を縦断するような長距離走行までこなしてしまう乗り物なら、このくらいの存在感があったほうがいい。 269kgもの車重があるバイクを、オンロードでもオフロードでも同じように運転できる事実はにわかに信じがたいだろうが、R1300GSアドベンチャーはそれを可能としている。絶妙な低速バランスと完璧な燃料供給、さらにASA(自動車高調整機能)が乗りやすさと扱いやすさを確保している。ハンドリングは快適で、オンロードでもオフロードでも一日中乗り回しても乗り心地は楽しく、快適なままだ。これは驚くべき事実である。 R1300GSアドベンチャーを購入予定の人にとって、悩ましいのはどのパッケージを選択するかだろう。オフロードでのスポーツ性を重視するか、長距離ツーリングでの快適性を重視するか。ハードケースをつけるか、アルミ鍛造ホイールを装着するか。こうした選択によって、R1300GSアドベンチャーは変身するし、オーダーメイドの衣服のようにぴたりとフィットする。想像はいくらでも膨らむが、予算という問題を避けては通れない。