BMW R1300GSアドベンチャーをイギリス人レーサーが斬る「30Lタンクの巨体で攻めの走りができる…そのシャシーと電子制御に驚愕だ」
オンロードの走りは、快適にもスポーティにも自由自在。とはいえ、ブロックパターンタイヤの限界はある
舗装路に戻っても、R1300GSアドベンチャーへの称賛は止まらない。ライディングモードをロードにすると、DSA(ダイナミックサスペンションアジャストメント=電子制御サスペンション)はパフォーマンスよりも快適な乗り心地を優先する。ダンピングがソフトになるから、サスペンションのセッティングとしてこれほどの乗り心地になるはずはないのだが、DSAは瞬時に減衰力を変え、素晴らしい乗り心地を提供する。 路面の凹凸が激しかったり、大木の根が路面をつきやぶって露出しているような場所でも、R1300GSアドベンチャーはその衝撃のすべてを吸収して安定性をキープする。私の前を走っているR1300GSアドベンチャーのサスペンションは激しく動いているのが見えたが、車体は安定していてライダーも動じることなくペースを保っていた。その様子は、水面下では狂ったように激しく足を動かしていても、あくまで平然と優雅に湖を泳ぐ白鳥を思い起こした。 走行ペースが上がってきたら、ライディングモードをダイナミック、あるいはダイナミックプロに切り替える必要がある。サスペンションの減衰力が締まり、タイヤからのロードインフォメーションが増大するため、R1300GSアドベンチャーのポテンシャルをさらに引き出せる。 カルー4はアスファルトでも良好なグリップ力を感じさせるが、ステップが路面をくすぐるくらいに車体をバンクさせると、このタイヤがオフロード重視であることと269kgの巨体であること、そしていくらBMWの電子制御が優れていても物理法則には逆らえないことを思い出さなければならない。ときおりタイヤのブロックがよれるのを感じたが、これは警告だ。現代のGSはすべて優れたハンドリング性能を持っているが、クリッピングポイントに深く進入して強めのブレーキを当てると、19インチのフロントタイヤに大きな負荷がかかる。 しかし、そのようにコーナーを激しく攻めようとした事実が、R1300GSアドベンチャーのシャシーと電子制御デバイスに絶大な信頼を寄せていることの証だ。DSAを介して伝わるロードインフォメーションや車体の状態も素晴らしく、限界は明確だし、バックグラウンドでライダーアシストが静かに機能していることが分かる。 ライダーアシストの機能を確かめようと、低速コーナーの立ち上がりで、車体を傾けたままスロットルを全開にしてテールスライドを起こそうと試みた。しかしそのたびにダッシュボードにはDTCが介入したことを示すマークが点灯し、R1300GSアドベンチャーは物静かに「ノー」と言いながら車体を前進させた。 R1300GSアドベンチャーの真髄は、その巨体にもかかわらずフレンドリーで、気楽に運転できるよう設計されていることだ。ただし、素早く方向転換させるには、装備される電子制御デバイスやアクセサリー、ガソリンの残量が大きく左右する。 ガソリン残量が15L以下なら、R1300GSアドベンチャーの挙動はスタンダードR1300GSと似ている。しかし満タンならそうはいかない。約11kgが車体の高い位置に増加していることを忘れてはいけない。特につづら折れをハイペースで走るとその事実を痛感する。GSアドベンチャーは素晴らしい性能を持っているが、スタンダードR1300GSよりも手強いバイクだ。 コーナリングABSはアドベンチャーの車重に応じて再設定されている。ラジアルマウントの4ポッドブレーキキャリパーは強力で、ライディングモードをロードに設定しているときには特にリヤのABSが作動していることを感じられた。しかし車重が軽いスタンダードR1300GSほど鋭さを感じられない。 ブレーキ同様、ボクサーエンジンのパワーとトルクもスタンダードR1300GSと同一で、最高出力145ps、最大トルク15.2kgmを発生する。燃料供給と点火マップは申し分なく、ダイナミックモードならスロットルをちょっと開けただけで鋭く加速する。2日間のテストライドで、レッドゾーン付近までエンジンを回したことは一度もなかった。低中回転域で太いトルクを発生するボクサーエンジンではその必要はないからだ。頻繁にシフトチェンジをしなくていいし、ハイペースで走っているときでも、エンジンは強いトルクを生む中回転域で安定している。 145ps/284kgのR1300GSアドベンチャーと、170ps/231kgのドゥカティ ムルティストラーダV4Sとぜひ比べてみたい。さらに、KTMからもパワフルなアドベンチャーモデルが登場する。これも興味深い。