BMW R1300GSアドベンチャーをイギリス人レーサーが斬る「30Lタンクの巨体で攻めの走りができる…そのシャシーと電子制御に驚愕だ」
走り出すと消え去る重量感、オフロードでも振り回せる。ただし体力はかなり必要だ
重厚感のあるR1300GSアドベンチャーだが、走り出してしまえばそれは遠い記憶となってしまう。これまでに乗ってきたすべてのボクサーGSと同じように、美しいバランスを保ちながら走れる。たとえ徒歩程度のスロースピードでも私に自信をもたらし、まるで別人のようにうまくなった気分にさせてくれる。大型燃料タンクの横幅は非常に広く、269kg(註:これはドイツ工業規格の数値で、日本仕様は284kg。以下同)であることを常に意識させるが、時速3マイル(4.8km/h=やや早歩き程度の速度)も出していれば重さを感じることはまったくない。 スペイン南部アンダルシア地方マラガの街中からスタートしたが、私たちは運良く混雑を避けることができ、風景を眺めながらゆったりとしたペースで走ることができた。BMWには何度も乗っているから、6.5インチのワイドな液晶ディスプレイと、ハンドル左側にあるナビゲーションホイールはすぐに使いこなせた。私は今でもGSのダッシュボードとスイッチ群が、市場最高と評価していて、ありがたいことにBMWはR1300GSアドベンチャーでもこの実績あるレシピを変えていない。 あっという間に、アンダルシア地方によくある埃っぽい道を走り抜けた。走り出せば重さを感じないとはいっても、巨大なバイクをオフロードで走らせるのは大変だ。横幅の広い燃料タンクは、スタンディングでも、ライディングフォームの自由度を制限する(ステップのグリップ力は良好なのだが)。それでもシャシーとサスペンションがバイクの重量を想像以上にいなしてくれる。 街中や駐車場といった低速走行でも有効な優しいボクサーバランスは、未舗装路で先のラインを見極めたり、前後左右の荷重バランスをどうするかを考えている間にも、歩くよりも遅いペースで進み続けてくれる。エンデューロモードと、エンデューロプロモードの燃料供給マッピングは、ほぼ完璧。オンロードでもオフロードでも、R1300GSアドベンチャーはあなたが想像する以上にフレンドリーだ。 テストルートには広く開けた場所がいくつかあって、私たちはわりと安全に100km/hくらいで砂煙をあげながら走った。モードをエンデューロプロにセットして、トラクションコントロール(DTC)の介入度を下げたり、リヤのABSをオフにしたりしてオフロードの醍醐味を味わう。 ほとんどのライダーがエンデューロプロモードを気に入るだろう。制御は素晴らしく、車体を安定させたまま、ファンライドを楽しめる。カルー4を履いたリヤタイヤをスライドさせながら、GSアドベンチャーをまるでおもちゃのように振り回して走れるのだ。車体を少し傾けながらスロットルを開けたり、逆操舵をあててやればカウンターステアで派手に走ることもむずかしくない。 夢中になりすぎるとDTCが介入してリヤタイヤのグリップ力を回復するが、アフターファイアとかミスファイアの音が鳴ることもなく、ベルベットのように滑らかにエンジンのパワーを制御する。まるでオフロードのエキスパートが後ろに乗っていて、スロットルオフのタイミングを教えてくれているみたいだ。安全にテールスライドできることに慣れてくると、どうやったらこの制御を破綻させられるのかを試してみたくなるほどだ。 これはABSでも同じで、非常に滑りやすい路面でスピードが乗ってるときのブレーキングでも非常に有効だ。オフロードを100km/hで走っている300kg以上の重量物を減速して停車させるには、それなりのライディングスキルが必要だが、最先端機械工学の威力は絶大だ。ライダーに自信を与えてくれ、リラックスしたままアグレッシブにオフロードを走破できる。まるで経験豊富なエキスパートライダーになった気分だ。 しかし油断は禁物だ。調子に乗った私がDTCをオフにした途端、R1300GSアドベンチャーの挙動はいっぺんに不安定になった。スライドしたリヤタイヤを戻そうとしても、145psと269kgは簡単に言うことを聞かず、振り子のように左右に振れ続ける。特にガソリンが満タンのときは要注意だ。 翌日、私の腕は激しい筋肉痛に見舞われた。オフロードでGSアドベンチャーを走らせるのは、やはり大仕事なのだ。 だけど、私はR1300GSアドベンチャーが気に入った。軽量な単気筒のオフロードバイクに乗っている人なら誰でも、R1300GSアドベンチャーのハンドリングは船のように感じるだろうし、本当のエキスパートライダーはABSを邪魔に感じるだろう。しかし大型のアドベンチャーバイクで日頃からオフロードを走っているライダーなら、BMWの実力の驚くはずだ。もし転倒したとしても、エンジンガードパイプなどのプロテクションも充実している。