山形知事選 5選目指す現職支援でオール与党化 県政界の思惑交錯
任期満了に伴い2025年1月9日告示、26日投開票の日程で行われる山形県知事選は、5選を目指す現職の吉村美栄子氏(73)に対し、前回21年知事選では対抗馬を出した自民党が初めて支援することを決め、主要政党の大半が知事を支えるオール与党化の様相を呈している。県内では抜群の知名度がある吉村氏を巡り、県政界関係者の思惑が交錯する。 「選挙でこれほどの感激を味わったことはあまりない」 自民県連会長の遠藤利明衆院議員は今年10月、衆院選の際に自らの事務所を訪問し、激励してくれた吉村氏に、思わずこう漏らした。 吉村氏は「政権中枢の大物政治家として県の未来のためにますます力添えをいただきたい」と遠藤氏を持ち上げた。政治家としての吉村氏の原点を知る関係者には、若干の驚きをもって受け止められる出来事だった。 地元で行政書士を開業する傍ら、県教育委員を経て09年の知事選に初めて立候補した吉村氏。旧民主党をはじめ、社民党や共産党、一部自民県議も含む超党派の支援を受けて初当選した経緯がある。 山形県政において自民は野党の立ち位置。吉村氏に近い県政関係者は今年の衆院選当時を振り返りながら「自民候補への訪問は控えてほしかった」と複雑な表情を隠さない。 しかし、吉村氏が自民に接近したのは今に始まったことではない。その時々の県政の課題に応じ、支持基盤にとらわれず現実的で柔軟な対応を取ってきた側面もある。 例えば雪害をはじめ、シカなど動物との衝突によって冬季を中心に運休や遅延が相次ぐ山形新幹線の高速化がその一つ。この問題を「政治家としての大きな夢」ととらえる遠藤氏に対し、吉村氏も足並みをそろえてきた。 今年7月に最上・庄内地域を中心に被害が出た大雨災害も同様だ。自民国会議員の橋渡しもあり、吉村氏が岸田文雄首相(当時)に支援を求める要望書を手渡し、間もなく激甚災害に指定された。 衆院選に際し、吉村氏が遠藤氏をはじめ山形県内3小選挙区の自民候補の事務所を次々と訪問したことについては、こうした自民との連携に対する「恩返し」と説明した。 吉村氏は12月6日の県議会で、先に質問した自民議員に答える形で「県民の審判を仰ぐ決意をした」と出馬を表明した。これを受けて自民県連は同15日、役員らによる選挙対策会議を開き、候補者の擁立を断念した。 「政治とカネの問題もある中で、自民党として立候補したい人がいなかった」。県連会長の遠藤氏は吉村氏支援を決めた理由について、本音を隠そうとはしなかった。 自民は前回の21年知事選で元県議を擁立し、吉村氏に惨敗している。過去4回の知事選で2回の無投票も含めて絶大な強さを誇る吉村氏を支援し、来夏の参院選では自民候補への協力を期待するのは当然のことなのかもしれない。ただ、吉村氏は現段階で態度を明らかにしていない。 こうした構図に、与党県議の一人は「知事を支える議員の存在意義はなんなのだろう」と違和感を拭えずにいる。 共産県委員会も12月に吉村氏の支援を決定した。4期目の県政運営を評価した半面、「自民党に推薦要請をせず、具体的な支援のあり方を協議しない」ことを吉村氏側との間で合意。自民との距離を縮める吉村氏に、一定の「くぎ」を刺した形だ。 このような情勢の中、福島県白河市の自営業、金山屯氏(84)が25日、無投票を避ける狙いで出馬の意向を表明。にわかに選挙戦となる可能性も出てきた。【古賀三男】