駅ナカ?ホテル経営?そんなものは鉄道会社の柱になり得ない、乗客がいないとダメになるだけだ
■ まずは食堂車と寝台車の運転を ――やはり利用者や競合の変化に合わせて鉄道会社も変わっていかなければならない。その知恵が問われているわけですね。かつて鳥塚さんは、いすみ鉄道でグルメ列車「レストラン・キハ」を走らせました。大井川鐵道でも列車で食事を楽しめる「食堂車」を運転してみたいと話していました。 鳥塚氏:今年の12月ぐらいからスタートできるように、いま準備を進めています。業者を選定して、お弁当箱をどういう形にしようか、そんな検討を始めています。 地元の「認定シェフ」がいるので、監修してもらい静岡の季節の料理を提供します。 食堂車に使用する客車は、ハウスクリーニングの業者さんにお願いして、徹底的にきれいにします。車両が古くてもいいんです。古いことと、汚れていることは別です。 ――家族全員で鉄道が楽しめるようになるといいですね。 鳥塚氏:食堂車だけではなく、寝台車も可能性があるとみています。もし、家族の誰かが列車の中で眠りたくないと言ったら、沿線の旅館に泊まればいいんですよ。寸又峡でもいいし、千頭だっていい。 寝台車にコンパートメントをつくって、テーブルを付ければ、そこで食事が出せますよ。グループの貸切にしてもいい。夜は、浴衣もタオルも用意します。駅弁が食べたい人は夕食に駅弁を選べばいいし、川根温泉ホテルで食事をしてもいいかもしれない。
■ 自動券売機だけの駅ばかりでいいのか 鳥塚氏:お客様を楽しませるためには、まず自分たちが楽しまなければダメですよ。寝台車や食堂車をなくして、車内販売もやめようとした人たちが、最高級の列車を動かすことができますか? という話です。 大井川鐵道はSLを昭和51年から動かしている会社で、観光、旅行事業も含めて、いろいろな経験を持っているんです。それは大事にしなければいけないと思います。 ――ところで、現代の日本は人口の少ない地方に行くほど、乗客の鉄道離れが進んでいます。鉄道と地域の連携はどうあるべきとお考えでしょうか? 鳥塚氏:いま、大井川本線は川根温泉笹間渡と千頭の間が不通になっていますが、その不通区間の駅で、地元の人たちが草刈りをやったりして駅をきれいにしてくれているんですよ。 町の経済自体は、林業や建設業に委ねられていますから、鉄道が不通であることへの不満の声はそこまで大きくはないのですが、大井川鐵道を支えたいと考えている人はたくさんいるわけです。 大切なのは、鉄道事業者がお客様目線を持つことであって、駅を自動券売機だけにしてしまうとか、昔の貨車を1両置いて新しい待合室にしてしまうとか、そういうやり方は、自分たちの都合優先になり過ぎていないか、ということです。 安易なやり方では、さらにお客様が減ってしまうかもしれない。そこから生まれるのは、サービスの質の低下という悪循環です。 ――日本のローカル私鉄はどこも青息吐息で、明るい話題が少ない。鳥塚さんが考える地方私鉄の理想像は、どのようなものなのでしょうか? 鳥塚氏:大井川鐵道の場合、平日は貨物輸送、休日は観光輸送に力を注ぐという形での2本柱を確立させるということですね。 今は「駅ナカ」事業であるとか、ホテル経営であるとか、鉄道会社の関連事業が脚光を浴びていますけれど、そういうものは、鉄道の利用客がいなくなったら全部ダメになりますよ。それは経営の柱とは考えにくいのです。 私が千葉のいすみ鉄道にいた時から、ずっと考えていたことがあります。