丸紅・リスクマネジメント部 インタビュー ~ 歴史が紡ぐ組織力、必要なのはこれからのストーリーを読む力 ~
―与信の現場ではAI導入など様々な変革期でもある。今後の展望は
当社では審査部時代の早い時期からスコアリング=信用を記号化するという取り組みを進めてきた。70年代から一定の算式で理念的なクレジットの金額リミットを自動算出するモデルなども構築しており、さらに1984年からは信用不安情報のデータベースを構築している。蓄積された信用不安情報も変数として取り込んで、1999年には統計学的な信用モデルを実装している。 例えば統計モデルでデフォルトを当てにいくのは、大半が3期のモデルだ。これより長い期間を使おうとすると、データが足りずに精度が落ちるからで、そういう居心地の良さで3期になっている。ただ実際には景気の波というのは片道5~6年のサイクルがある。 今3期分しかモデルが見ないということは、コロナの時期の決算しか見ないということになる。コロナの時の決算だけを見て、コロナ後の世界を予想しようとしても当たるわけがない。 6年なり10年なりのマーケット環境のなかで、この会社がどういうふうに収益を上げてきたか、今後どうなるのかというストーリーが読めなくてはいけない。この決算書の外にある今の足元の環境下で、この会社はこうなっているはずであると想像する必要がある。 足元で起こっていることを、決算書にないデータも使いながら推測するということが本来の仕事なので、そこを機械で置き換えできるとは思えない。 逆に言うと、ネットサーフィンの検索結果だけで査定をしているようなタイプの人は、淘汰されるのではないだろうか。数値なり足元の環境なりを通して先を読む、ストーリーに置き換えるということができないと、人の仕事ではなくなってくると感じている。 ◇ ◇ ◇ 丸紅のスローガンは「できないことは、みんなでやろう。」俳優の堺雅人さんを起用したCMでもお馴染みだ。 紅審会事務局長を務める石井氏は、「紅審会という組織への“愛着”を感じることが多くある」という。そして「この“愛着”こそが会を長年途絶えずに継続させてきた秘訣の一つであり、一朝一夕では出来上がらない大切なもの」とも語る。 タフなミッションであっても決して孤立させず、人と人の繋がりを通して課題に取り組む。丸紅グループの与信管理の現場は、まさに「できないことは、みんなでやろう。」のスローガンを体現した理想的なベースの上に立ち、この組織力がグループの力の源泉となっている。 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年6月17日号掲載「審査業務 最前線」を再編集)