辻井伸行、様々なピアノと出合う楽しみ支える「調律師さんの仕事に感謝」
調律師を主人公にした映画だが、ピアニストである辻井も当然のことながら調律師とは縁が深い。演奏は会場によっても、ピアノによっても、また、調律師によってもガラリと変わるという。 「ホールによって響きが違いますし、ピアノによっても違います。ピアニストのタッチとか、調律師さんによっても音がかなり変わるのですが、例えばいろいろな車を運転するようなもので楽しい。とくにピアニストは自分で楽器を持ち運べないし調律もできないので、やはり調律師さんは大切です。調律師さんと観客のみなさんと一緒にひとつのコンサートを作り上げているので、この映画で調律師さんのことがわかるとコンサートの見方も変わると思いますし、とても興味深い映画だとあらためて感じています」
調律の要望はあまり出さず「音でわかり合っていくタイプ」 お客様と
辻井自身は、調律師とはどのようなコミュニケーションをとっているのだろうか。 「東京ではいつもやってくださる方がいますが、お互い信頼している調律師さんだとすでにわかり合っているので、それは大きいですね。でも僕は初めての方であってもあまり要望は出さず、音でわかり合っていくタイプです。ホールによっては弾き込まれていなかったり使われていないピアノもあって、それはすごくもったいない。ピアノも弾かれないと音が出ないし、そういう古いピアノは調整が大変ですが、大変な作業を調律師さんがやってくださっているからこそ、よいコンサートができるんだと思っています」
そして普段、演奏で心がけていることは、聴く人たちを楽しませることだという。 「技術や表現力は大事ですが、一番は、やはりお客様に楽しんで聴いてもらえる演奏。私はやはりピアノを弾くのが楽しいので、お客様と一体になって楽しんで演奏します。少しでも生の音楽を聴いてもらって、音楽に興味を持ってもらって、足を運んでもらえるようなピアニストになりたい。音楽家としてまだまだ、一生勉強ですしゴールがないので、より世界に羽ばたけるように、少しでも愛されるようなピアニストになっていきたいです」