新幹線開業60年(2)「絶対安全」が生んだ「交通革命」
梅原 淳
東海道新幹線が開業して60年。その軌跡と展望を伝えるシリーズ2回目は、世界に誇る安全性と、人流を変えた「交通革命」に焦点を当てる。
乗客の死亡事故はゼロ
東海道新幹線が開業した1964(昭和39)年10月1日から今日に至るまで、フル規格の新幹線全線で列車の脱線や衝突による乗客の死亡事故は1件も起きていない。新幹線には安全を守るためのさまざまなシステムが開業当時から採用され、威力を発揮してきたからだ。 安全を守るシステムのなかで最も重要な役割を果たしているのはATC(Automatic Train Control device: 自動列車制御装置)である。前方の列車や停車すべき駅に近づくと、ATCは列車のスピードを自動的に下げていく。運転士は駅の所定の位置に止めるために微調整するだけでよい。おかげで新幹線では列車同士の衝突事故の可能性は原理上ゼロとなり、現実に今も事故ゼロの記録を続けている。 ATCは列車の安定した運行にも寄与した。新幹線は晴れた日中といった、前方の見通しの良い時だけに運転されるのではない。ATCのおかげで悪天候、夜間でも運転士は安心して時速200キロを超えるスピードを出せるようになったのである。 鉄道の安全性が高められた今日でも、踏切で列車が自動車などと衝突する事故は後を絶たない。フル規格の新幹線では営業列車が走行する線路はすべて立体交差とし、踏切事故の起きる可能性を根絶した。線路を跨ぐ橋などから自動車などが転落してもすぐに列車を停止させられる仕組みも導入されている。 欧米の鉄道では衝突安全性能を備えることが必須とされ、新幹線のような時速200キロを超える高速鉄道用の車両を導入する際にも、厳格な衝突安全基準を満たすことが求められる。ところが、新幹線の車両には衝突安全性に関する基準は存在しない。ATCといった安全を守るシステムであるとか全線立体交差という構造により、衝突事故は起こり得ないとの考えに基づいて設計されているからだ。