大腸に約40兆個「腸内マイクロバイオータ」とは?注目されたのはノーベル賞受賞学者が唱えたヨーグルト好きのあの地方の「不老長寿説」がきっかけで…
腸と脳が情報のやり取りをして、お互いの機能を調整している<脳腸相関>と呼ばれるメカニズムが、いま注目されています。東京大学大学院総合文化研究科の坪井貴司教授いわく、「腸内環境の乱れは、腸疾患だけでなく、記憶力の低下、不眠、うつ、肥満、高血圧、糖尿病……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきている」とのこと。そこで今回は、坪井教授の著書『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』から、腸と脳の密接な関わりについて一部ご紹介します。 【書影】最新研究で見えてきた、腸と脳の驚きのしくみを解説。坪井貴司『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』 * * * * * * * ◆腸内マイクロバイオータとは 脳から腸への情報伝達は、視床下部の神経内分泌細胞が分泌するホルモンや遠心性神経が関与します。 一方で、腸から脳への情報伝達は、求心性迷走神経(内臓感覚神経)や消化管に存在する腸内分泌細胞が分泌する消化管ホルモンが関与します。 これに加え、近年になって、脳腸相関(腸と脳が相互に情報をやり取りしながら、お互いに影響を及ぼし合っているという概念)に新たな役者が登場しました。 それは、腸内に存在する細菌、ウイルス、真菌です。 このような微生物の集団は、あたかも色々な種類の植物が群生しているように見えることから、「フローラ(細菌叢<そう>)」といい、腸内に棲みつく微生物の集団は一般的に「腸内フローラ」と呼ばれます。 専門家の間では、この腸内フローラのことを腸内常在微生物叢(腸内マイクロバイオータ)と呼びます。以降、本記事では「腸内マイクロバイオータ」とします。 なおヒトの大腸には、500~1000種類、約40兆個もの腸内マイクロバイオータが存在すると考えられています(1-1)。 私たちの体の細胞数は約37兆個ともいわれていますので(1-2)、ほぼ同じだけの数の腸内マイクロバイオータが消化管の中には存在しているのです。
◆ヒトが消化できない物質も分解 私たちは毎日食べ物を摂取しますが、摂取したものをすべて消化し、吸収できるわけではありません。 例えば、野菜に含まれている食物繊維は、消化・吸収できません。一方で、腸内マイクロバイオータは、私たち自身が消化・吸収できないさまざまな物質を分解できます。 これは、腸内マイクロバイオータが持つさまざまな遺伝子のはたらきを調べることで明らかになりました(1-3)。 腸内に棲んでいるさまざまな腸内マイクロバイオータの遺伝子の数を合計すると、約2000万個もあると見積もられています。 私たちヒトの細胞の中に保存されている遺伝子の数は、約2万2000個ですので、腸内マイクロバイオータがいかに多くの遺伝子を保有しているのかがわかるかと思います。 腸内マイクロバイオータは、私たちヒトが消化できない食べ物に含まれる食物繊維や油脂などを分解し、短鎖脂肪酸などを産生します。 肉の脂やバター、オリーブオイルや大豆油などを合わせて油脂と呼びますが、これら油脂の主成分は、グリセリンに脂肪酸と呼ばれる炭素原子が鎖状に多数つながったものです。 この炭素数が6個以下のものを短鎖脂肪酸と呼び、酢酸、プロピオン酸、酪酸などがあります。
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