「楽天前監督」今江敏晃氏が明かす、田中将大、藤井聖、鈴木翔天ら選手との《胸アツ秘話》
「将大、行こうか」
野手でリーダーシップを発揮してもらいたいと考えていた小深田大翔は開幕から調子が上がらず、今季は力を出し切れたとは言えないシーズンに終わった。 「野手はここ数年ずっと浅村頼りで、誰かが出てこないといけなかった。そうした状況で、フルイニング出場を果たした小郷(裕哉)、全試合に出てくれた辰己(涼介)がチームを引っ張ってくれたのは非常に大きかったです。 その一方で小深田や村林(一輝)、太田(光)も中心になってやってくれたんですけど、能力を考えればもっとできるはず。特に小深田は年齢的にも、実績的にももっともチームを牽引していく存在になってほしかったのでシーズン前からそういう話もしていました。 シーズンに入ってからも3回くらい監督室に呼んで『思うような成績は残せていないけど、その中でもできることがある』という話もしたりして、数字には表れない部分でも頑張ってくれたと思います」 開幕前の順位予想では評論家の半分ほどが最下位に挙げた中、勝率5割前後で粘り強く戦い続けた今江楽天。9月18日には藤井が10勝目をマークして3位に浮上したが、すぐにロッテにその座を奪い返され、瀬戸際へと追い込まていく。 起死回生を果たすべく9月28日、田中将大が今季初登板のマウンドに上がった。 「先発ローテーションのピッチャーをやりくりするのに人数的にも少し足りていなかったので、将大の復帰をまだかまだかと待ちわびていました。 去年のオフに肘の手術をして、キャンプから開幕ローテーションに入ろうと必死にギアを上げてやってくれていたんですけど、思うようなパフォーマンスまでには至らず、チームの全体的なバランスも踏まえて開幕前にファームで調整してもらうように伝えました。 将大は二軍に行くのは野球人生で初めてですし、球団にとっても大きな存在ですから、ピッチングコーチともよく話をして、精査して、強い覚悟を持って決めました。 本人ともしっかり話をして『わかりました』と言ってくれましたが、もちろん悔しさもあったと思います。それでももう一回、自分の体を見つめ直してやると、本当に前向きにやってくれていました。本来のパフォーマンスが出せない状態で無理にマウンドに上げても今後の野球人生に影響しかねないですし、もう1度復活してほしいという思いもあって待ち続け、シーズン終盤に投げられる状態になった。 それがローテーションでずっと投げてくれていた内(星龍)が体調不良で外れるタイミングと重なり、『将大、行こうか』と。シーズン無傷の24連勝をしたり、普通の人とは違う星の下に生まれている選手なので、チームにいい流れを持ってきてくれるんじゃないかという期待も込めて起用しました」 切り札の投入が実らなかったところで、CS進出争いの行く末は決していたのかもしれない。