「楽天前監督」今江敏晃氏が明かす、田中将大、藤井聖、鈴木翔天ら選手との《胸アツ秘話》
鈴木翔天の涙
藤井は7回途中無失点の好投で応え、先発ローテーション枠に滑り込んだ。 「必死に取り組んでいてくれたんだと思います。そこから最終的に11勝。打てそうで打てないと言われたりもしますが、それは結果球ではなく、その前の球が効いたりしている。それをしっかり投げ切れているから、少し甘く入ってもバッターは打ち損じてくれるんです。彼にとっても非常に濃密で大きな1年になったんじゃないかなと思います。藤井も期待に応えてくれた1人です」 現在、繰り広げられている「プレミア12」にも抜擢された鈴木翔天は、さらに苦しんでいた。 「非常に球が強い中継ぎピッチャーで、馬力があるんですけど、オープン戦でストライクが本当に入らなくて、自分でもフォームのバランスがうまくいかないと悩んでいた。コーチともいろいろ話をして試行錯誤していたんですが、なかなか光が見えなかった。僕も見ていて、苦しんでいるのはわかっていました。 それで一度、呼んで1対1で話をしました。『苦しいよな』と投げかけると、思考もネガティブな方向を向いていたので『まだシーズンは始まっていないし、1年間終わったときにこんなこともあったなって言えるように、今、苦しんどいていいんじゃないか。いいやん、苦しんだ方がいいよ、まだ』と。 倉敷での広島戦のあとでしたね。そこで涙を流すほど苦しんでいました。でも、そこから練習での姿が変わったんですよね」
監督の言葉が持つ力
苦難を乗り越えた鈴木は49試合に投げて26ホールドポイント。防御率は1.66でブルペンに欠かせない存在となった。 さらに侍ジャパンからも召集がかかった。吉報が届くと今江氏は「ジャパンに選ばれておめでとう。あのとき、あんな話をしていたのにな」と、約束通りの声掛けをしたという。 「コーチは普段から選手とコミュニケーションを取りながらやることが多いですが、監督はあまり距離感を縮めすぎると、ここというときにする話の効果が薄れてしまう。タイミングもそうですし、そうしたさじ加減は選手によっても変えていました」 そこまでこだわったのは監督の言葉の力の大きさを、現役時代に身をもって知ったからだ。 「レギュラーに近い形で試合に使ってもらえるようになったとき、結果を出せずに焦っていたんですが、監督のボビー(バレンタイン)に『君はいいものを持っているし、打てるから大丈夫。変に頑張らないといけないと思わず、自信を持って思い切ってやったらいいから』と言ってもらって、またバットを振れるようになったんです。 何気ない言葉ではあるんですけど、監督のひと言は特別で選手にとって大きいんだと感じました。僕は年齢も近くて、一緒に現役をやっていた選手も結構いる中だったので彼らがどう感じていたかはわからないですけど、そういう経験から話をすることでなにかうまくいけばと思っていました」