無意識に人を傷つけてきた自分に気づいたときの後悔…ブルーな過去と向き合う浅野いにおとカツセマサヒコが語る
小説家のカツセマサヒコさんと漫画家の浅野いにおさんが、男性性や自らの結婚、過去の自分をテーマに語り合った。 対談のきっかけはカツセさんが執筆した長編小説『ブルーマリッジ』(新潮社)だ。 二人の男性を軸に、結婚や離婚、仕事、夫婦、ハラスメントなど現代だからこそ起きる問題や葛藤を描いた本作が浮き彫りにしたものとは? 『明け方の若者たち』『夜行秘密』の作者と、『ソラニン』『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下「デデデデ」映画含む)の作者の対談をお届けする。
浅野いにお×カツセマサヒコ・対談「男子ブルーを語る」
カツセ 映画「デデデデ」後章が始まったばかりで、スケジュール的にもこの対談は絶対無理だと思っていたのですが、どうして引き受けて下さったのですか? 浅野 確かに対談って普段は断ることが結構多いですね。得意じゃないのもあるし、小説家の方との場合、作品を読み込まなきゃいけないのでハードルが高いと感じちゃうんですよ。カツセさんは面識があるからっていうのもあったんですけど、最初このお話を頂いた時に小説の冒頭を読んでみたら、扱っているテーマにすごく関心があったんです。男性とはとか、結婚とはという、まさに今、自分が気になっていて、すごく考えることが多い内容だった。男性側から結婚を語るという機会がメディア上でかなり少ないと前から感じていたこともあり、その話ができるんだったらおもしろいかもしれないと思って、今回はお引き受けいたしました。 カツセ 本当に光栄です。以前もお仕事でお会いさせて頂きましたが、自分の作品について話すのは初めてなので変な汗かいています。 浅野 こういうテーマを選んだのって、何か理由はあるんですか? カツセ ここ数年でフェミニズムやジェンダーに関連する本を読む機会が増えたんですけど、そうした知識をインストールすると、過去の自分の言動や文章があまりに差別的だったり加害性を帯びていたりすることに気付かされるんです。そうした黒歴史に悔やむ日々が続いていて、今後も創作を続けるなら、この「男性性の加害性」というテーマを避けてはいられないなと思っていました。あと、結婚に焦っているという若い人の声をいまだによく聞く一方で、離婚したいという既婚者の声も同じくらい耳に届くことが増えて、「結婚」というブラックボックスには何があるのか、それを解き明かす話を書きたいという欲求もこの作品につながっていきました。 浅野 ご自分の黒歴史みたいなものは、作中でも活かされているんですか。 カツセ 全部が全部そうではないのですが、パートナーや恋人を自分の所有物のように捉えているシーンなどは、自分の過去をいくらか反映させています。 浅野 この10年くらい、男女間の性差みたいなものに対する意識は大きく変わって来ましたから、あまり掘り返したくないことがある人も多いでしょうね。僕自身も思い当たる部分は少なからずある訳で、『ブルーマリッジ』はそういう意味で接点がある小説でした。「おもしろい」という言い方よりも、自分の中にある後ろめたさみたいなものを、ずっと刺激し続けられる感覚。ずっと、ぞわぞわする。冒頭では話の展開が予想できず、主人公・雨宮の彼女、翠さんの存在感が増すあたりから非常にぞわぞわして、こういう感じで攻めてくる内容なんだなと……(笑)。最後まで興味深く読ませて頂きました。 カツセ ずっと浅野作品で育ってきた人間として、今のお言葉は本当にうれしいです。ありがとうございます!