Jリーグ 広島・佐藤寿人が隠れた大記録を継続
フェアプレー精神の原点 カズ、ゴンがお手本
佐藤の記憶には、フェアプレー精神の原点となっている「眩しい背中」も刻まれている。 Jリーグが産声を上げ、一大ブームを巻き起こした1993年。すでにサッカーに夢中になっていた小学校6年生の佐藤は、双子の兄・勇人(ジェフ千葉)とともにテレビを食い入るように見つめていた。 スーパースターとして大活躍していたFWカズ(三浦知良=当時ヴェルディ川崎)の華麗なゴールや派手なパフォーマンス以上に、佐藤を惹きつけてやまないものがあった。カズもまた、イエローカードとは無縁のプレースタイルを貫いていた。FW中山雅史(当時ジュビロ磐田)を含めて、Jリーグの創成期を支えた先駆者たちへの軌跡もまた佐藤のサッカー哲学に大きな影響を及ぼしている。 「よくない行為を子どもたちに見せるのは、プロとしてよくないと思っている。僕自身、カズさんやゴンさんがそういうことをしてカードをもらったという記憶がない。最高のお手本だと思うし、2人を観て育ったと僕たちがJリーグを、そして日本のサッカーしっかりと発展させていかないといけない」
サッカーにおいて、相手を傷つける行為はまったく必要ない
受け継がれたバトンと表現すればいいだろうか。今年で31歳となり、ベテランの域に達した佐藤は次の世代に、そして未来のJリーガーを夢見る子どもたちに、サッカーを含めたスポーツで最も大事なことが伝わっていって欲しいと願わずにはいられない。 「自分の2人の息子もサッカーをやっているので、やっぱり結果だけを出せばいいのではなくて、フェアプレーを実践した上で結果を出すことがすべてなんだ、という思いを持ってもらえたらすごく嬉しい。サッカーにおいて、相手を傷つける行為はまったく必要ない。ピッチの上でお互いが持っているすべてをフェアに出し合わなければ、見ている人たちも楽しめない。だからこそ僕は常に相手をリスペクトしてきたし、その姿勢はこれからも変わりません」
審判にとって佐藤は扱いやすい選手ではない
J1の個人タイトルのひとつに「フェアプレー個人賞」がある。受賞基準は「リーグ戦で警告・退場処分を受けていない選手」であり、当該選手が複数いる場合は、出場試合数が多い選手が対象となる。 開幕から全試合に先発し、けがとも無縁のコンディションを維持している佐藤が昨シーズンに続いて、史上最多の3度目となる栄誉に輝く可能性は極めて高い。佐藤自身も強くこだわっているタイトルだが、こう付け加えることも忘れない。 「それ以前にプロとして、目の前の試合に勝つことにこだわらないといけない。フェアプレー個人賞が欲しいがゆえに相手との接触を避けるのはもってのほか。ときには激しいプレーも必要ですし、審判に対して何も言わないのか、と言われれば決してそうでもない。キャプテンという立場でもありますし、チームを代表して伝えるべきことはしっかりとした言葉で伝えないといけない。審判にとっても、僕は決して扱いやすい選手というわけではないと思うんですけど(笑)」