阪神の新4番候補マルテは再建の使者となれるのか?データから浮かぶ不安要素
阪神が4番候補として新外国人、ジェフリー・マルテ(27)と契約した。昨季はエンゼルスで大谷翔平と共にプレー。90試合に出場し打率.216、7本塁打、22打点の成績を残している。しかし、阪神が彼に4番打者として長打を求めているのだとしたら、期待外れに終わってしまうかもしれない。 マルテの打撃データを分析すると日本人投手の変化球に手を焼き、角度をつけることに苦労する可能性を否定できないのだ。 長打に必要な2大要素は打球の初速と角度。バレルゾーンにどれだけ打てるかで決まってくる。 バレルゾーンについては改めて説明するが、マルテのデータについてある程度まとまった打席数のある2016年(284打席)と18年(209打席)を比較したところ、打球速度の最速値は、そこそこ速いものの、打球初速の平均値、打球初速が95マイル(約153キロ)以上の割合はほぼリーグ平均だった。
大リーグの平均に近い選手が日本に来るなら、日本では速い部類かもしれないが、致命的なのは打球の角度。今年の大リーグ平均は11.7度だったが、マルテの平均は6度。ほぼ半分だった。 16年は12.9度だったので284打席で15本塁打を放ったのも納得だが、18年は209打席で7本塁打。さもありなん、という結果である。 以下に過去3シーズンのデータをまとめてみた。 バレルゾーンとは、打球初速と打球角度の組み合わせで示され、以下のような目安となる。 打球初速 打球角度 98マイル(約158キロ)26~30度 100マイル(約161キロ)24~33度 116マイル(約187キロ)8~50度 これが何を意味するかといえば、例えば、打球初速が100マイル(約161キロ)で、打球角度が24~33度なら、高い確率で長打になりますよ、ということになる。 15年の場合、バレルゾーンの打球は打率5割以上、長打率が1.500以上だった。16年は、打率.822、長打率2.386(BASEBALL GEEKS参照)を超える。 そして、若干の例外はあるものの、本塁打は、このバレルゾーンから生まれている。 で、マルテの場合、打席数に対するバレルの割合が、16年の4.9%から18年は3.3%に下がった。わずかな差にも見えるが、決して小さくはない。 例えば来季、阪神で500回打席に立つとする。バレルの比率が4.9%だとすると、バレルの打球数は24.5。仮に7割が本塁打になるとして17.15本。一方、バレルの比率が3.3%だとすると、バレルの打球数は16.5。やはり7割が本塁打になったとして11.55本。1年で5.6本の差が生まれる。 後は、大リーグと日本人投手との差次第だが、少なくともバレルゾーンに飛ぶ比率が2016年のレベルに戻らない限り、マルテが今年、20発以上を打つことはないのではないか。 そもそもなぜ、打球角度が下がり、バレルゾーンの割合が少なくなったのか。そこをたどると、変化球に角度をつけられなくなった現状が透ける。 マルテは本来、4シームファストボール(以下4シーム)にめっぽう強く、そこに大きな変化は見られない。 《4シーム》 対右投手 平均角度/平均初速 対左投手 平均角度/平均初速 2016年 14.7/91.0(146キロ)29.6/88.6(143キロ) 2018年 13.8/91.5(147キロ)25.5/90.8(146キロ) 左投手の4シームを打った時の平均打球角度など理想的。大リーグ通算本塁打30本のうち20本が4シームを打ったもの。左投手から11本、右投手から9本。昨年も左投手からは4シームを2本、スタンドへ運んだ。 一方で昨年は、変化球を打った場合の平均打球角度が、対右投手でマイナスだった。つまり、高い確率でゴロになる。 《変化球》 対右投手の平均角度/平均初速 対左投手の平均角度/平均初速 2016年 9.3/85.5(136キロ)-7.0/85.0 (137キロ) 2018年 -6.2/86.2(139キロ)1.5/83.9(135キロ) 16年の対左投手の数字に関しては、10例しかないので参考程度だが、いずれにしても昨年は、投手の右、左にかかわらず、変化球を打ったときの打球に角度がついていない。 では昨季、なぜこういう結果になったかだが、配球を調べてみると、右投手がマルテに対してスライダーを投げる割合が、2016年に比べて大きく増えていた。 16年は18%だったのが、18年は30%。初球にスライダーを投げる割合も18%から29%にアップ。また、2ストライクでのスライダーの割合も21%から37%に上がっている。16年と17年は、スライダーを打った場合が64打数10安打で、打率.156、3本塁打。長打率わずか.313。 それがスライダー増の根拠だろうが、18年は16打数5安打で、打率.313、1本塁打となっている。 ここだけを切り取れば苦手を克服したようにも映るが、平均打球速度は85.1マイル(137キロ)で、平均打球角度はー4.8度。ハードヒットできず、打球も上がらない。5安打のうち2本は内野安打。相手投手にしてみれば、4シームを投げて長打を打たれることを警戒し、スライダーの割合を増やしている部分もあるので、ゴロを打たせた時点で、狙い通りとも言える。