葵わかなさんが語る、時代劇『おいち不思議がたり』登場人物たちの魅力
あさのあつこ氏の人気時代ミステリー小説『おいち不思議がたり』シリーズ(PHP文芸文庫)。江戸深川の菖蒲長屋で、医者である父の仕事を手伝っているのが、主人公のおいちである。 【写真をもっと見る】インタビューに応じる葵わかなさん おいちが他の娘と違うのは、この世に思いを残して亡くなった人の姿が見えること。そんなおいちが、自らに宿った不思議な力を生かし、事件の謎を解いていく。相棒は、凄腕の岡っ引き・仙五朗親分だ。 まだ若いおいちを、見守り、支えているのが、父・松庵と伯母のおうた。悩みながらも己の力で人生を切り拓き、医者を目指す娘の物語が、このたびテレビドラマ化された。おいち役の葵わかなさんに、道なき道を歩んでいく、おいちに寄せる思いをうかがった。 [写真]永井浩 ※本記事は、月刊誌『歴史街道』2024年10月号より、一部抜粋・編集したものです
「心を尽くして人を救うお話です」
──今回のドラマは全8回ですが、そのなかで成長していくのですね。 自分に自信を持てなかったおいちが、回を重ねるにつれ、様々な経験を通して、人を助ける側に回りたいと思うようになります。周囲の人たちに揉まれていくうちに決意を固めていくんです。 ──台本に加えて原作を読まれたことは、役作りに役立ちましたか。 原作には、おいちの心境も記されているので、台詞に込められた思いなどを知るヒントになりました。この思いをニュアンスとして出せたらいいなと思ったり、逆にドラマなので、ここはおいちの感情を先取りして考えないほうがいいかなと思ったり。 ──おいちは周りの人に恵まれていますよね。父の松庵は器の大きい人物ですし、伯母のおうたも、おいちに精一杯の愛情を注いでいます。おうたの場合、その方向性がおいちの望んでいることとずれていることもありますが。台本のなかで、印象的な台詞はありましたか? いつも松庵さんのひと言が心に刺さるんです。なかでも第2回に出てくる『毒も身の内』という言葉は、核心をついているような気がしました。人とは違う能力を持って事にあたれば、辛い思いをすることもある、腹をくくれ、ということだと思うのですが、はっとさせられました。 撮影をスタートした当初は、松庵役の玉木宏さんと親子に見えるのかと心配でしたが、演じているうちに玉木さんに包容力のようなものを感じたんです。おいちはいつも必死で頑張らないと、と走っているのですが、松庵さんはそんなおいちに、焦るなよという思いを伝えてくれます。そういった部分でも、ああ、父と娘なんだなと思います。 ──相棒となる岡っ引き・仙五朗についてはいかがですか? 仙五朗さんはエネルギッシュで、一緒に走っている姿が思い浮かぶようなキャラクターなんです。松庵さんとは違う、情熱の流れ方をしているのですが、二人とも頼りになる存在です。二人に支えられて、初めておいちが前を向いていけるというか。 もう一人、おいちを大事に思っている新吉という飾り職人も登場します。医者は人の生死と向き合っているので、暗いお話も多くなるのですが、新吉さんは明るいキャラクターなので、伯母のおうたさんとともに、現場を明るく照らしてくれています。 ──友人のおふねちゃんは、大きな商家の娘なんですよね。 そうなんです。なので1回の診察で五両もとるお医者さんにだって診てもらえるんです。五両って、おいちたちが住む長屋の家賃の何か月分なんでしょう。そんな大金持ちの娘のおふねちゃんと、おいちが何で友達になれたんだろうと思い、調べてみました。 そうしたら当時は士農工商という身分制度があって、武士階級とは対等に話せないけれど、おふねちゃんは商家の娘だからおいちと友達になることもできたのか、などを知ることができました。気になることは調べるのですが、そうすると物語の背景が見えてきて、さらに面白いなと思えるんです。 ──最後に、この作品への意気込みを聞かせてください。 心を尽くして人を救うお話です。観た方に推理してもらう楽しさもあります。松庵さんや仙五朗さんの言葉が、おいちや観ている人の背中を押してくれるような気もします。医術と時代、怪奇が混ざった濃いお話になっていますので、楽しみにご覧いただければと思います。 「おいちは繊細で、感受性豊かな女の子なんです。繊細な人というのは、周囲と自分の差を感じて、悩んだり疲れやすかったりすることもあります。ですのでおいちが、周りの人たちに助けられながら、その繊細な部分を自分の個性として受け容れられるようになるまでの変化を、大事にしながら演じたいと思いました」