激ヤバキャラの“存在しない妹“に転生!?攻略法なしの状況を「かわいい」を武器に生き残れ『乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する』【書評】
縦スクロールマンガで大人気の『乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する』(ZION:漫画、Elephant Kim:原作/白泉社)が紙単行本でも刊行開始し、1巻と2巻が同時発売となった。書籍化にあたり見開きのコマ割り形式に再構築されており、縦スクロールマンガに馴染みがない読者にも読みやすい構成になっている。
平穏に暮らしていた少女・ダリアは、自分が前世でプレイしていた18禁乙女ゲーム『ウロボロスの迷宮』の世界に転生していたことに突然気づく。『ウロボロスの迷宮』はメインルートがすべてバッドエンドを迎えるというハードさが売りのゲーム。その中でも最も危険な存在として知られるヒーカン・ペステローズの妹・ダリアに主人公は転生していたのだ。これが大問題! なぜなら「ヒーカン・ペステローズの妹・ダリア」などというキャラクターは『ウロボロスの迷宮』には存在しないのだ。
自分が慣れ親しんだゲームの世界への転生は、いまや男性向け、女性向け問わず大人気のジャンルだ。その多くはゲームのシナリオを熟知していること、つまり転生先のゲームの世界における未来を知っていることが、主人公の大きなアドバンテージ、いわゆるチート能力となる。しかし「ゲームには存在しなかったキャラクター」に転生してしまった時点で、今いる世界はダリアの知る『ウロボロスの迷宮』とは別のもの。ゲームのシナリオを知っているとはいえ、それがこのあと実際に起こるかは、まったくの未知数なのである。 つまりダリアは、普通の少女とほとんど大差ない、過酷な世界を生き抜くには少々心もとない存在だ。当面の危機は、兄にしてゲーム中もっとも危険な男・ヒーカンだ。彼に粛清されないように、ダリアは「かわいい妹」を演じることを決意する。こうしてダリアは、「かわいさ」を武器に『ウロボロスの迷宮』の世界をサバイブしていくことになる。
従来のゲーム世界への転生ものでは、主人公の行動の結果、転生した世界の歴史、つまりゲームのシナリオが変わってしまい「未来を知っている」というアドバンテージを主人公が失ってからこそが、ある意味クライマックスともいえる。特殊能力を失い、主人公自身の魅力やその世界で得た仲間との協力で、未来を切り開いていく様子にこそ胸が踊る。『乙女ゲームの最強キャラたちが私に執着する』は、いわばゲーム世界への転生というジャンルの一番おいしいところを、最初から味わえる作品なのだ。今後も多くのキャラクターが、ダリアのかわいさに魅了されていくことが示唆されており、今後の展開からも目が話せない。
電子書籍では3巻以降も配信中。ヒーカンがダリアに向ける感情の変化を1コマごとに読み返しながら続刊を待つのも、胸躍る時間になりそうだ。 文=yomina-hare