10年後にはタクシーがなくなる地域も――コロナ禍を経て「地域格差」が浮き彫りになったタクシー業界の“明暗”
神戸のタクシーは10年後になくなる
一方で、100万人都市でもタクシー業界の明暗が浮き彫りとなりつつある。例えば大阪では日本交通グループが積極的な買収を見せれば、新興企業の「newmo」も老舗タクシー会社の買収を進めている。京都では「MKグループ」、福岡では「第一交通産業グループ」、都市の規模は違うが沖縄県では「沖東交通グループ」がシェアを爆発的に伸ばしている。そして、神戸では「ロイヤルリムジングループ」が参入10年足らずでシェアナンバーワンとなった。 筆者はこれまで全国でタクシーを取材してきたが、大都市圏の変貌には注視してきた。特に神戸は都市の中でも、最も衰退が激しいエリアの1つだと感じている。コロナ禍以降で、ビジネスでの需要が急速に落ち込み、観光でも宿泊地として選ばれることが少なく、夜の利用が減少している。これらを背景に、タクシー法人の廃業や譲渡、合併が目立つ。ロイヤルリムジングループ代表の金子健作氏が、神戸市の状況をこう説明した。 「神戸市は山間部が広がり、坂道も多いため、タクシーは地域の足としての必要性が高い。しかし高齢化が進み、若年層は大阪に流れて年々人口が減っています。ビジネス客の利用も減り、客単価は1000円前後が大半。神戸では10年後にはタクシーがなくなるのでは、とすら言われています」 「それに伴い、身売りしたいというタクシー事業者も増加した。ただし、一定の需要も根強くもある。横ではなくて、縦の移動の需要、つまり坂道の高低差を抜ける短距離移動です。神戸はこの需要に対して供給がマッチしていないエリアでもあるんです」 神戸市は昨年人口150万人を切った上、京都市や大阪市など近隣都市に比べてインバウンドが低迷している。ベイエリアでは新たな水族館が開館するなど、多くの観光施設も作られているが、現状は厳しい。 また、神戸市に近い例として前出の近藤氏は新潟市を挙げた。 「人口減が止まらず、観光では近隣県に遅れをとっている。自治体の活力の低下から、人の採用に苦労しているエリアでもある。新潟のタクシー業界も強い危機感を持っていますよ」 地方の惨状を知る近藤氏が提起するのは、地域と連携した上でのDX改革、人員確保だと言う。 「私は地方ほどライドシェアが徐々に普及する必要があると感じています。徳島ではタクシーアプリはまだ広く普及していませんが、フードデリバリーサービスはある程度普及している。都心と違い、地方はフードデリバリーの配達を車で行うことが多い。そのリソースを利用し、ドライバーを確保するのも1つの案だと考えています。ほかにも例えば市と連携して一般社団法人を立ち上げ、そこで地域として公共交通の担い手を確保していく。実際に既にそういった活動も始めています。それができないと、地域の人的資源を確保できないという問題意識を強く持っています」 身売りや統廃合、コールセンターの委託、営業時間の短縮――。地方タクシーは、業界でわずか1割とも言われる生き残りの枠をかけて、その道を模索している。
ノンフィクションライター 栗田シメイ