10年後にはタクシーがなくなる地域も――コロナ禍を経て「地域格差」が浮き彫りになったタクシー業界の“明暗”
「ピーク時には1時間半待ち」
近藤氏は、祖父が経営者である徳島県の「吉野川タクシー」でドライバーとして働いた過去がある。保有台数は9台と県下最小規模でもあり、それゆえに零細企タクシー会社の経営の難しさを身をもって感じてきた。例えば、徳島市のような人口約25万人の中核都市の現状についてこんなことも感じている。 「徳島市内で稼働するタクシーは200台前後。これは実は県内の登録台数の約6割程度の数字です。それが4日間で100万人強が訪れる阿波おどりのようなイベントの際だと、全く足りなくなるわけです。今年の阿波踊り期間中、ずっとタクシープールを観察していましたが、ピーク時には1時間半待ちの状態でした。徳島市ですらそんな状態で、これでは観光客の再訪にも繋がらない」 タクシーの場合、地方に行くほど配車アプリは普及しておらず、住民への浸透度も低い。まだまだ無線配車に頼らざるをえない現状がある。そして、地方の零細企業ほど電話配車での売上げが大半を占めるが、電話を受ける人員を確保できず、できたとしてもコストとして重くのしかかり、苦しい経営状況も目立つ。 実はコールセンターの委託事業はタクシー業界において目新しいものではない。様々な企業が参戦してきたが、結局採算が合わずに大半が撤退していった。電脳交通は創業時から8年間の試行錯誤の末、研修に注力し、オペレーター1人1人の作業効率を上げることでコスト維持を図り、事業継続を実現してきた。現在同社は、約100名のオペレーターで業務を回している。 「私がタクシー業界に入った15年前と比べ、地方の稼働台数、電話予約は感覚的には半分程度になってしまっています。もはや夜は全く稼働できない、という地域も出てきた。本来、人口が少なく、交通手段が限られる地方ほどお客様のリピート率が高いはずが、今の無線配車の大半は新規のお客様になっている。タクシーが呼べないから違う会社に電話して、を繰り返し、リピーターになれないんです。なぜそうなるか、というとタクシーが足りないから。これは山口や島根、徳島や高知、富山や福井、和歌山に鹿児島、宮崎のような地域で顕在化しています」 最近ではタクシーの初乗り料金の値上げが実施されている。 「全国的な乗車料金の値上げが実施されたことは地方ほど影響を受けています。都心部のように迎車や予約料金を取るとお客様が離れてしまうジレンマもある。価格に敏感な地域も多く、元々取っていなかった迎車料金を取ることのハードルも極めて高い」