10年後にはタクシーがなくなる地域も――コロナ禍を経て「地域格差」が浮き彫りになったタクシー業界の“明暗”
「福岡・熊本」と「鹿児島・宮崎」の違い
地方公共交通の維持・存続に特化し、タクシー事業者向けのサービス提供で注目される新鋭企業が「電脳交通」だ。徳島県に本社を置く同社は、全国に3カ所ある配車センターからのタクシー配車業務の代行、クラウド型の配車システム(空車の車両と顧客注文のマッチングシステム)の2つを主力製品とし、15年に開業した。全国47都道府県で、約2万台、約500の法人タクシーが同社と契約しているという。 社や地域別の特徴をヒアリングした上でサービスを提供するという性質上、業界の地域差を深く理解し、事業者からの切なる声も届いている。同社代表の近藤洋祐氏は、地方タクシーに起きている変化についてこんな見解を示す。 「タクシー会社として勝てる地方、それ以外の地方が明確化されつつあります。今、全国で9割の法人タクシーが存続の危機にあると言われています。例えば四国でも、香川、愛媛といった観光客を取り込めている地域と、徳島、高知では大きな開きが生じている。九州でも半導体バブルに湧く熊本や福岡に対して、それ以外の鹿児島や宮崎の事業者は打つ手がなく苦しんでいます。北陸新幹線が県内全線開通した恩恵を受ける石川県と、それ以外の北陸地域、中国地方全域も同様のことが言える。観光客を取り込めていない地域ほど、弊社と契約数が多いのです」 タクシー事業者にとって地元の観光資源はその売上を大きく左右する。 より特徴的なのが西日本の事業者でもある。同社の契約の半数以上が西日本エリアだという。これは電脳交通の本社が徳島に置かれていることも一因だが、より重要なのは法人タクシーの業界動向に東西差があることだ、と近藤氏が続ける。 「東京を中心とした関東の大都市圏では、保有台数の増大を目的とした大手社による中小企業の買収が加速度的に進んでいます。それも非常に安価で、中小の側ではとにかく手放したいというタクシー事業者が目立つ。これはもはや抗えない流れです。西日本では、若干その流れが緩やかでもあります。オーナー企業で先代から受け継いだり、他業種から来た若い経営者が、DX化で業務効率を改善したいという意見も少なくない。その意識差が数字に表れているとも感じます」 タクシー業界の多くを占めるのは中小・零細企業だ。22年時点で保有台数10車両までの割合が68.6%、従業員10人までが63.8%となる。(国土交通省調べ、ハイヤー・福祉事業も含む) 興味深いのは、1989年時点で5677だった法人数は、22年時点で5580社とほとんどその数を減らしていないことだろう。一方で法人車両数は、約3万台減少している。つまり、中小・零細企業の割合が減少しない中で、元々の中小業者はさらに保有台数が減っているという現実がある。同社はこの点に目をつけ、ビジネスを展開した側面もある。 「私達が注力したのは、いかにコストを圧縮できるかということでした。買収が進めば、業務の統合・効率化をシステムで求める企業が出てくる。また、車両数が減っているということは1台あたりの単価を上げるための業務フォローが求められる。オペレーターもドライバーも全員がこなすような過疎地では、無線配車フローを委託できるシステムがあれば大幅なコスト減に繋がると考えたのです。最近まで全くDX化が進まなかった業界だけに、システム導入によって配車や人員配置も効率化され、地方タクシーのコストは着実に減少してきている。それでも乗務員が集まらないため廃業、身売りする事業者が出てきてしまう、という現実があります」