介護の職場、改善重ね好循環 パート含め職員数確保、勤務体系30パターン… 静岡・清水区の特養
介護業界の人材不足が続く中で介護事業を担う職員数に余裕を持たせたり、パートの勤務体系を30パターンに多様化したりする経営の工夫で人材の好循環を実現する事例が注目を集めている。専門家は短時間労働を組み合わせた働き方の多様化が介護業界でも人材確保の鍵を握ると指摘する。 「職員を定数ギリギリにすると離職につながり、サービスが低下しかねない。余裕を持たせることが経営にもメリットになる」。こう強調するのは、静岡市清水区の特別養護老人ホーム「白扇閣」の久保田和宏施設長(54)。約180人の職員のうち3割がパートで、子育て世代の女性や継続雇用を含めたシニアが担う。それぞれの希望を踏まえて数多くの勤務体系を設け、勤務シフト作成にはAIを活用する。 パートでも正規職員と同様に研修や資格取得支援を受けられるようにしてサービスの質を高める工夫もしている。勤務歴6年で介護福祉士の資格を取得した望月早苗さん(47)は子どもの成長に合わせて働き方を変え、現在は週5日、午前8時半から午後2時半まで6時間勤務。子どもの事情で急に休む人も珍しくないが勤務者で柔軟にカバーするという。「お互いさまなので、自分が休むことになっても気兼ねなくお願いできる」と話す。 10年ほど前から求人が少なくなってきたが、職場環境の改善を重ね、離職率は5%以下となり全国や県の平均を大きく下回る。久保田施設長は「離職率が低く、派遣や有料人材紹介は使わないのでコストが抑えられる。さまざまな年代や属性の職員がいるのでライフスタイルに合わせた時間帯に勤務してもらっている」と説明する。 ■静岡県内離職率12% 人材不足 過疎地で深刻 県内の介護職員の離職率は直近の2022年調査で12・5%。全国の離職率(14・3%)を下回っているものの、県内の介護業界の有効求人倍率は4倍(24年7月)と高止まりしている。介護人材は県内全体で慢性的な不足が続いていて、特に過疎地で深刻化しているという。 県介護保険課によると、伊豆半島南部や浜松市北部などの中山間地で介護人材の確保が難しくなっていて、都市部との間で地域差が出ているという。業界の人材不足の背景として、介護報酬の低さが影響していると分析。加藤克寿課長は「3Kのイメージがあるが、働き方の変化に加え、ICTやロボットなど最新技術の活用で現場は変わってきている。経営者の意識も重要になる」と話す。 ■過重労働なら悪循環 介護業界の労働市場に詳しいリクルートジョブズリサーチセンター長の宇佐川邦子さんの話 介護業界で人手不足になっていないのは離職率が低い事業所だ。離職率には働き方と業務負荷が関係している。介護職は人の生死に関わる仕事なので責任が重い。職員数がギリギリの状態で人数がさらに少なくなると、他の職員が過重労働になり、離職につながる悪循環に陥る。経営者は介護報酬を意識して8時間のフルタイム勤務を想定しがちだが、職員数に余裕を持たせ、シニアや子育て世代の女性のパートなど短時間労働を活用した方が、職員が休んだ場合に柔軟な対応が取れて業務への影響が少なくなる。
静岡新聞社