学校のアンガーマネジメント―「上手に叱る」練習をしよう
事例8 叱る技術を磨きたい高校3年生担任
高校3年生担任となり,指導の難しさを感じています。個性を大事にすれば学校や学級の目標にそぐわないことが多くなります。高校生らしく生活してほしいと願い,「ここぞ」というときに指導したいと思っていますが,感情的に怒鳴ってしまうことが多いので悩みがつきません。上手に叱る技術を磨くことができたら現状を打破できそうです。具体的にどうすればよいか教えていただければと思います。
“アンガーマネジメント”を取り入れた対応 情報のアップデートを
高校3年生の1年間は進学や就職を決める人生の岐路。担任の一挙手一投足が生徒に大きな影響を与えます。事例内の「個性」と「高校生らしさ」,「感情的に怒鳴る」と「上手に叱る」といったワードから,相反する事柄が拮抗する現実にご苦労されていることが想像できます。 さて,文部科学省『生徒指導提要』が令和4年12月に改訂されました。105ページ[不適切な指導と考えられ得る例]のうち,下記が重要かと思います。 ●大声で怒鳴る,ものを叩く・投げる等の威圧的,感情的な言動で指導する。 今の時代,感情的な言動は許されません。令和4年6月の「こども基本法」の成立により,子どもの権利擁護や意見を表明する機会の確保等が法律上位置付けられたからです(前掲書まえがき)。教職の経験で得た知見も大切ではありますが,経験値に固執せずに最新情報にアップデートし,指導にあたることが求められています。
「変化ログ」でアクションプランを
4月号では「ミラクルデイエクササイズ」でゴールを決めました。今回は「変化ログ」で,ゴールへのアクションプランをつくります。 理想の未来と現実の間にはギャップがあります。そのギャップを埋めていくために, 自分がつくりたい変化と, 変化をつくるために必要な具体的ステップを描くことで行動に移せるようになります。 具体的にどう行動していくかを考えて取り組む「スモールステップ」があれば,一歩一歩なりたい自分に近づいていくことができます。 まず,つくりたい変化を具体的に決めます。 ・いつまでに(期間を設定すると達成したかどうかを評価しやすくなります) ・どの程度変わっていたら満足できるのか(どんな叱り方をしたいのかを具体的に言語化します) 次に,変化をつくるために必要な行動を決めます。現実的にできそうな行動だからこそ,意欲的に取り組めるようになります。継続していくためにも欠かせない視点です。また,今自分ができそうなことを思いつく限り書き出します。それに優先順位をつけると無理なく変化をつくっていけます。 「変化ログ」の案を以下に記します。先生方ご自身の状況に合わせて取り組んでみてください。 つくりたい変化 ・せめて1ヵ月後までには生徒に指導したいことを穏やかな口調で伝えたい。表情を明るくしたい。 変化をつくるために必要な行動 ①毎朝,自分の表情を鏡で見る。できれば笑う。 ②生徒の前で腕組みをしない。 ③睡眠不足だと不機嫌になるので,退庁時刻や帰宅後のタイムマネジメントをし,早めに就寝する。 ④一方的な指示でなく,生徒が自己決定できるよ うに働きかけを工夫する。場当たり的にならないよう,メモを取っておく。 数字は優先順位を示しています。すぐにできることを1位にし,容易にできることから取り組んでいきましょう。いきなりいつも笑顔でご機嫌で冷静に指導できるという理想を描くと,苦しくなります。 鏡に映る瞳が輝いて,口が「へ」の字でなくなってきていれば,自分に小さな変化が起きていることを実感できます。ステップが小さければ小さいほど達成感が得られ,自信に繋がります。教材研究と同様に,怒りの感情についても冷静な対処ができるようになるための手だてが欠かせません。 参考:『アンガーマネジメントトレーニングブック2024年版』(ミネルヴァ書房 監修 日本アンガーマネジメント協会) 川上 淳子 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントコンサルタント®。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。 *『月刊教員養成セミナー2024年5月号』 コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!