「教育熱心と虐待は紙一重」 中学受験ブームに潜む「教育虐待」の闇 「勉強ができない息子を父親が刺し殺したケースも」
なまじ本人が受験に成功していると……
拙著『教育虐待』の取材で会った精神科医は次のように話していた。 「30歳を超えて、会社や家庭の問題でうつ病になったと思い込んでいる人でも、ライフヒストリーを聞くと、子供時代の親との関係性に原因があることも珍しくありません。教育虐待が原因でいろいろな認知がゆがみ、社会生活が難しくなって、20代、30代で心を病むというケースです。ただ、なまじ本人が受験に成功していると、親にされたことが虐待だったという認識が乏しくなり、自覚が難しいのです」 こうしたことを踏まえると、社会で認識されているより教育虐待の被害者は多いのかもしれない。 取材した教育関係者の多くが口をそろえるのは、勉強の強制は学力を上げる意味でも、学歴をつける意味でも、ひいては将来の進路選択においても非常に効率が悪いということだ。それは次の3点からいえるそうだ。
「大学受験の方が効率的」
1点目は、学力の定着率の悪さだ。子供の意思とは関係なしに、親から脅されて勉強をやったところで、身に付くわけがない。勉強が面白くてやっていたり、自分が掲げた目標に向かって勉強したりしている子と比べれば、その差は明らかだ。 2点目は、受験を後回しにした方が学歴には有利という現実だ。都内の予備校に勤める講師は次のように話す。 「今は中学受験より高校受験、高校受験より大学受験、大学受験より大学院受験の方が簡単なんです。中学受験は頭の良い子たちが4~5年間も受験専門の勉強をして受けてきますが、高校受験では教科書と同じ内容の学習を中3の夏くらいから真剣にやるだけですし、倍率も高くない。そうなると、中学受験より、高校受験の方が受かりやすいのです。 大学受験になると、その傾向がより高まります。現在は、少子化のために4年制の私大の6割が定員割れを起こしていて、学生集めに躍起になっており、六大学レベルですら推薦やAO入試の枠を大幅に広げています。そのため、学校の勉強さえ押さえておけば、書類と小論文で入れるんです。例えば、青山学院や関西学院といった名門校でも、中学受験で入るより、大学受験で入る方がずっと簡単になっている。高い学歴が欲しいなら、大学受験の方が効率的なのです」 3点目は、就職活動において学歴がさほど重視されなくなっていることだ。『就職白書2024』によれば、企業が採用基準で重視する項目は、1位「人柄」(93.9%)、2位「自社への熱意」(76.5%)、3位「今後の可能性」(67.4%)に対し、「大学/大学院名」はわずか17.9%でしかない。現に、入社試験の選考の序盤では面接官に大学名を隠して面接を進める大手企業も増えている。