「教育熱心と虐待は紙一重」 中学受験ブームに潜む「教育虐待」の闇 「勉強ができない息子を父親が刺し殺したケースも」
空前の「中学受験ブーム」下で、“行き過ぎた教育”が社会問題化しつつある。わが子に勉強を強い、時に罵声を浴びせ、時に手が出て……。その「愛情」は子のためか、それとも親自身のためか。「コミックバンチKai」で連載されている『教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち』の原作者である作家の石井光太氏が、無自覚に虐待の加害者とならないために必要な「親の心構え」を語った。 【写真を見る】社会に出てから精神疾患になるケースも 「教育虐待」のリアル ***
2023年9月、教育虐待が引き金となった、子供による両親殺害事件の公判が佐賀地方裁判所で開かれた。被告のA(当時19歳)は、長年にわたって教育の名のもとに父親から暴力を受けてきた自分の内面を次のように言い表した。 「心がどうしようもない状態で壊れそうになりました。いつか仕返ししてやると思うようになり、高校生になって殺してやると考えました」
息子に「失敗作」「人間として下の下」
事件は、この年の3月に佐賀県鳥栖市の一軒家で起きた。父親は学歴コンプレックスが強く、長男のAに幼い頃から過剰な量の勉強を強要していた。自分の理想をAに押し付けたのだろう。 父親はAを塾に通わせるほかに、自分でも勉強を教えたが、その指導はあまりに暴力的だった。解答を間違えただけで1時間以上も正座をさせたり、息子を「失敗作」「人間として下の下」などとののしったりした。Aはだんだんと父親に殺意を抱くようになる。 Aは父親の期待通り国立の九州大学に合格したものの、父親への憎悪が消えることはなかった。大学進学から約1年後、積年の恨みを晴らすべく、刃渡り15.3センチのダガーナイフを購入し、返り血を浴びても目立たない黒の服を着て大学のある福岡市から実家に戻る。そしてそこで、大学の成績のことで文句を言ってきた父親を切りつけ、止めに入った母親までをも殺害したのである。 公判で、Aは次のように言い切った。 「いつか仕返しをしてやろうと思うことで、その思いを杖(筆者注・心の支え)のようにしていました」 裁判官は、教育虐待があったことを認めつつ、懲役24年の刑を言い渡した(今年8月に判決確定)。