樋口恵子92歳「85歳を過ぎて著作が注目され、新しい扉が開いた。60歳は中間地点、新しいことを始めるには良い時期かもしれません」
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんによる『婦人公論』の新連載「老いの実況中継」。92歳、徒然なるままに「今」を綴ります。第20回は、【一滴の水も集まれば大きな河に】です。(構成=篠藤ゆり イラスト=マツモトヨーコ) 【写真】「後に続く若い世代の人たちがさらに道を広げ、女性が自分らしくのびのびと生きられる社会にしてほしい」と話す樋口さん * * * * * * * ◆85歳を過ぎて開いた新しい扉 この歳になって思うのは、人生、何があるかわからない、ということです。私は仲間たちと「高齢社会をよくする女性の会」の活動をしながら、執筆や講演など、評論活動を続けてきました。ただし物書きとしては、地味だったと思います。 ところが85歳を過ぎた頃から、思いがけず著作が世間から注目されるようになり、何冊も本を出すことになりました。それまではどちらかというと評論家としての著作が多かったのですが、「もうこの歳になったら恥も外聞もなんのその。カッコつけてもしょうがない」とばかりにトホホな日常を隠さずご披露したことが、みなさんに受け入れられたのかもしれません。 『老いの福袋』が出版された際も、重版のお知らせがあると、印刷したもののまったく売れず倉庫に本が山積みになっている夢を見て、怖くなって目が覚めたりしたものです。あらためて振り返ると、80代から新しい扉が開いた気がしますし、人間、何歳になっても思いがけない展開があるものだと、人生の妙に感じ入ります。 私が高齢者問題に取り組み始めた頃は「介護する側」の年齢でしたが、今や正真正銘の高齢者です。自分が当事者になってみると、初めて経験する老いの様相にあたふたすることもありますし、「あの頃はちっともわかっていなかった」と、若き日の自分を振り返って反省し、ダメ出しをすることもあります。『婦人公論』のこの連載も、高齢社会に対してモノ申してきた人間の責務として、人生100年時代を歩んでいる一ローバの実感と実態を隠さずお伝えしようと思って始めた次第です。
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