荷物が届かない、自宅に食料がない! 日本人は「本当の物流危機」を経験すべき――物流ジャーナリストの私がそう考えるワケ
物流業界に忍び寄る「運べない」危機
まず、2024年問題の本質を勘違いしてはいけない。この問題は、単にドライバーの残業時間の上限規制で荷物が運べなくなるという話ではない。それだけでなく、荷物が運べなくなることを含めて、残業時間の上限規制が引き起こすさまざまな問題をまとめたものだ。 例えば、荷物を運ぶ使命感が強い運送会社が自己犠牲を強いられているという状況も2024年問題のひとつだ。しかし、こうした個別の課題は社会全体にはなかなか伝わらないのが現状だ。 一方で、「荷物が運べない」という状況が見た目上は発生していない理由については、いくつかの意見や考察がある。 1.一部の荷主や大手運送会社が進める共同輸送などの取り組みが効果を上げている。 2.運賃の上昇を恐れた荷主が積載効率の改善などを少しずつ進めた結果、影響を最小限に抑えている。 3.中小の荷主を中心に「荷物が運べない」状況が実際には発生しているが、表面化していないだけである。 「2」については、これまで運賃が安すぎたため、少しの工夫でも大きな効果が出た可能性がある。運送効率向上に無関心だった荷主が多かったことの裏返しともいえるだろう。さらに、ドライバーの残業時間の上限規制は基本的に年間単位で計算されるため、真の影響が現れるのは2025年4月以降だという意見も業界内では根強い。
トラック機能不全の衝撃
いずれにせよ、2024年4月1日に始まったこの問題は、まだ年末年始や年度末といった大きな繁忙期を迎えていない。楽観的な見解を持つ人たちは、これらの繁忙期を経た後に市況を再確認するべきだろう。 あるいは、日本人は、日本社会は一度、 「荷物が運べない」 「荷物がない」 といった本当の物流危機を経験したほうがよいのかもしれない。運送会社やドライバーがどれだけ苦しんでいると訴えても、個別の視点だけでは問題の深刻さが伝わらない可能性があるからだ。 “産業の血液”“経済の血液”といわれ、社会のあらゆるものの9割を運ぶトラック。日本の未来を考えるなら、トラック輸送が機能不全に陥ったとき、私たちの日常がどう変わるのかを、一度身をもって体験するべきなのかもしれない。
坂田良平(物流ジャーナリスト)