荷物が届かない、自宅に食料がない! 日本人は「本当の物流危機」を経験すべき――物流ジャーナリストの私がそう考えるワケ
自己犠牲で追い込まれる運送業界の現実
同じ問題は冷凍食品輸送でも起きている――。 実はあまり知られていないが、国内最大の消費地である東京では冷凍倉庫が不足している。このため、地方、特に東北の冷凍倉庫に保管し、需要に応じて関東へ輸送する仕組みが取られている。 東北から関東への冷凍食品輸送を担ってきた運送会社B社の社長は、この夏、自分の判断を後悔していた。同業他社が「物流の2024年問題(以下、2024年問題)」を機に長距離輸送から次々と撤退するなか、B社は 「それでも誰かが長距離輸送を守らなければならない」 と考え、無理を承知で輸送量の増加を引き受けた。その結果、現場は大混乱に陥った。 長時間運行によるドライバーの負担が増えただけでなく、無理な受注の影響で冷凍食品の一部が溶けるという商品事故まで起きてしまったのだ。 「モノを運ばなければならない」 という使命感から、自己犠牲を覚悟して対応したものの、結果としてB社が被った損失は想定をはるかに超えるもので、社長は深く後悔している。
「2024年問題」楽観論と現場の溝
一方で、2024年問題に対する楽観的な報道が話題になっている。 2024年10月30日、日本経済新聞が朝刊一面で「トラック輸送量、残業規制後も維持 大型車・共同輸送寄与」と報じた。記事の要点を簡単に説明すると、次のような内容だ。 ・2024年4月にドライバーの残業時間の上限規制が始まった後も、長距離トラックの輸送力は低下していない。 ・理由は、1台のトラックあたりの輸送量が増えたことにある。 ・実際、主要高速道路での中型トラックの通行量は微減したが、4車軸以上の特大車トラックの通行量は6%増加している。 しかし、この報道に強く反発したのが全日本トラック協会だ。 「2024年問題は掲載されている大型車両へのシフト等で解決できるような簡単な話でないことは皆様ご承知の通りで(中略)、我々トラック事業者はもとより、荷主を含めた関係者と政府が一丸となって、相当な危機感を持って2024年問題に対応している真っ最中であり、そうした中で車両の大県化や共同輸送の推進といった一部の取り組みを取り上げて問題が生じていないかのような印象を与える本件記事が一面トップで掲載されたことは誠に遺憾であり、国土交通省も同様の見解であることを確認しております」 筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)も、この記事を読んだとき、「本当か?」と疑問を感じた。記事にはその結論を裏付ける明確な根拠が示されていなかったからだ。 ただし、2024年問題の影響が軽微であることを示すデータも存在する。それが帝国データバンクのリポート「2024年問題の現在地、貨物輸送量はこれまでと同水準を維持!?」だ。 このリポートでは国土交通省の「自動車輸送統計月報」をもとに、2024年4~7月の貨物営業用自動車の輸送量が前年同期比で3.6%増加し、8.6億tに達したと報告している(2023年4~7月は8.3億t)。これは過去5年で最も高い水準だ。 ただし、このリポートは「2024年問題が発生していない」と結論付けているわけではない。現時点で貨物輸送量が増加している事実をデータとして示したものであることを補足しておく。