荷物が届かない、自宅に食料がない! 日本人は「本当の物流危機」を経験すべき――物流ジャーナリストの私がそう考えるワケ
リンゴ輸送危機の真相
2024年3月、「リンゴが運べず、ミカンに負ける」という言葉が話題になった。発言したのは青森県知事だ。4月1日から、トラックドライバーの労務管理基準を定めた改善基準告示が改正され、ドライバーの1日の拘束時間が最大16時間から15時間に短縮された。 【画像】「なにぃぃぃぃ!」トラック運転手の「最新年収」です! 画像で見る(14枚) 宮下宗一郎青森県知事は、この改正によって青森県の特産品であるリンゴを東京まで輸送する時間が、従来の1日から2日に延びてしまい、競合するミカンなどの果実に対する競争力が失われると訴えた。 しかし、この発言には明らかに矛盾がある。知事は 「運転時間そのものが9~10時間かかり、法定の休息時間に荷受け、荷下ろしなどの時間もあります」 と説明している。つまり、リンゴの積み卸しに数時間(発言から推測すると最低でも5時間)がかかるといっているのだ。 一方で、政府が進める物流革新政策では、貨物の積み卸し(荷役)や待機時間を1運行あたり2時間以内に抑えることが推奨されている。この背景を踏まえると、知事の発言は 「青森県のリンゴ農家を守るために、ドライバーが犠牲になってほしい」 といっているようにも聞こえる。
農業と物流が直面する人手不足の壁
だが、「ドライバーが手伝ってくれないと積み込みなんてとてもできない」という現実は、リンゴ農家だけでなく農業全般や漁業などの1次産業に共通している。 運送会社はこれまで、荷主側の都合のよい労働力として使われてきた歴史がある。最近では、家具大手のイトーキ(東京都中央区)が運送会社に無償で付帯作業をさせていたとして、公正取引委員会から独占禁止法に基づく警告を受けた。報道によれば、イトーキは積み込みなどの運送以外の業務を無償で強要したほか、繁忙期に 「納品場所以外での作業」 をドライバーにさせ、その残業代も支払っていなかったという。 これについてイトーキは、 「今回の警告を極めて重く受けとめており、委託先物流事業者との取引適正化に向けた取り組みを全社をあげて推進し、適切な関係の構築を進めてまいります」 とコメントしている。確かに、イトーキのような大企業であれば、こうした問題を是正するのは比較的容易かもしれない。 しかし、農家となると話は別だ。 農業は人手不足が深刻で、高齢化もドライバー以上に進んでいる。例えば2023年のデータでは、ドライバーの19.4%が60代以上だが、農業従事者では2020年時点で65歳以上が 「70%」 を占める。こうした状況では、農家もやむを得ずドライバーを「都合のよい労働力」として頼らざるを得ない現実がある。 地方から関東への青果輸送を担う運送会社A社は、いまだに長時間におよぶ手積み・手卸を請け負い、コンプライアンス違反となる長時間運行を続けているという。 「誰かがやらないと地方からの青果輸送は崩壊してしまいますからね……」 と、A社の社長は苦しい胸の内を語る。