算数の説明が、どこかおかしい…不定方程式に「解があるとは限らない」という「数学の本質」を突いた、あまりに鋭すぎる「小学生の疑問」
鋭い! 問題に作為的な匂いを嗅ぎ取った小学生!?
この問題について質問をされたお父さんは、教科書のように表を使って説明したそうです。すると、"教科書の解き方は知っている。それでいつも答えがうまく見つかるのか? その理由を教えて”というのです。 いやいや、子どもは予想以上に鋭いのです。この問題にどこか作為的な匂いがしたの でしょうし、関心もあるようです。 確かに、ディオファントス方程式にはいつも解があるとは限りません。 (ア)は上の表のように整数解を持ちます。しかも、ただ一通りではありません。 ここからは、この子どもさんの質問に答えることにしましょう。
ユークリッド互除法と密接な関係がある
この問題の解き方は、前回の記事で紹介した最大公約数を求めるユークリッド互除法と密接な関係があります。 まず、最初に次のような定理を紹介しましょう。 ---------- 二つの正の整数a, bの最大公約数をdとするとき、次の等式を満たす整数u, vがある。 ua+vb=d……(イ) ---------- いま、a = 385, b = 105として考えてみましょう。 これは前節の壁貼りの問題の数値です。最大公約数は35でした。 そこで、そのときのユークリッド互除法のプロセスを振り返ってみます。 385=105×3+70(385を105で割る) 105=70 ×1 + 35 = 70 + 35(105を1. の余りの70で割る) 70=35×2(70を2. の余りの35で割る) こうして、3. 式で、35が最大公約数であることが決まりました。これが互除法です。 そこで、2. 式から70=105-35とし、この式を1. に代入します。 385=105×3+70 =105×3+105-35=105×4-35 385-105×4=-35⇔(-1)×385+4×105=35……(*) (*)より、(イ)を満たすu, vはu =-1, v=4ということになります。 このようにイの性質はユークリッド互除法から出てくるわけです。 (イ)の特別の場合として、次のこともわかります。 ---------- 二つの正の整数a, bが互いに素であれば(すなわち最大公約数が1) ua+vb=1を満たす整数u, vがある。……(ウ) ---------- 前節の245, 173の最大公約数は1でした。つまり、互いに素です。 そのときのユークリッド互除法のプロセスを振り返ってみます。 245=173×1+72 173=72×2+29 72=29×2+14 29=14×2+1 このプロセスを逆にたどるのです。 1=29-14×2 → 1=29-(72-29×2)×2 =29×5-72×2 → 1=29×5-72×2= (173-72×2)×5-72×2 =173×5-72×12 → 1=173×5-72×12=173×5-(245-173×1)×12 =173×17-245×12 こうして、 1=173×17+245×(-12) となります。 これらの性質(イ)(ウ)は、数論で頻繁に使われる基本的な性質なのです。 そこで、小学校の問題に戻ります。 もう一度、(ア)式を見てみましょう。式の左辺を見てもらうと3x+2yであり、3と2は互いに素です。 3x+2y=30 ……(ア) したがって、ウから3u+2v=1となる整数u, vがあることになります。 ここで、アの右辺は30ですので、上の式の両辺を30倍すれば3(30u)+2 (30v)=30となりますので、x=30u, y=30vとして解が求まることになります。