ホンダの軽商用BEV「N-VAN e:」が個宅配ビジネスで存在感を高めているのはなぜなのか
ついに時代が追いついてきた?
もうひとつは、ネット通販市場がコロナ禍を経てさらに大幅拡大して、小口の個宅配送に適した軽商用バンのニーズがぐんぐん高まっていることだ。小さな荷物を大量に積む個宅配送では、荷室から助手席まで完全フラット化できるN-VANの強みが最大限に発揮される。しかもN-VANのもうひとつの特徴である左側センターピラーレス構造も、側方からの積み下ろしがしやすいなど、小口の配達ならキャブオーバーより有利な点も多いのだ。 さらに2024年問題だ。いわゆる働きかた改革によって、物流ドライバーの時間外労働の上限規制が2024年4月から強化されて、物流業界全体でドライバー不足が懸念されている。そのために、とくに負担の少ない個宅配送ドライバーでは、あの手この手の採用活動がおこなわれるようになった。 そうした新しい環境を見据えて、N-VAN e:では開発に宅配最大手のヤマト運輸の協力もあおいだ。バッテリーや動力性能の実地検証だけでなく、細かい使い勝手面でもさまざまな証言をもらったとか。そんなN-VAN e:の開発担当氏によると「最近では女性やパートタイムの個宅配送ドライバーが確実に増えています。従来型のキャブオーバーは乗り慣れたベテランには問題ないのですが、運転姿勢が乗用車の『N-BOX』とほぼほぼ同じN-VAN/N-VAN e:は不慣れなドライバーでも恐怖心を抱かず、疲れないというメリットがあります。今後はそこも押したい」と語る。 開発担当氏の言葉を信じれば、これまで軽商用バンとしては弱点だったFFレイアウトが、これからは逆にメリットとなる可能性があるということだ。さらに「N-VANはもともと価格も高めでした。あらためて見ると、軽商用バンとして機能や装備が過剰だったきらいがあるのは否めません。そこで今回のBEV化を機に、今一度、勝負をかけようと考えたわけです」という同氏もいうように、N-VAN e:はN-VANから不必要なデザイン変更もあえてせず、装備も絞り込んで、さらに不要なシートを取り払った1人乗りやタンデム2人乗りまで用意して価格をおさえた。それでも当初予定よりかなり価格は上がったというが、約30kWhという軽としては大容量の電池を積んで全車200万円台を実現した。 しかも、先に発売予定だった最大のライバル=スズキとダイハツ共同開発の軽商用BEVは、もろもろの事情により発売が無期限延期状態におちいってしまっている。N-VAN e:には今まさに神風が吹いている状態といえなくもないわけで、ついにN-VAN/N-VAN e:に時代が追いついてきた……のか? (文=佐野弘宗/写真=佐藤靖彦、本田技研工業/編集=櫻井健一)
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