「普通においしい」は褒め言葉なのか…外国人には伝わりにくい「曖昧な日本語」の味わい深さ
■「普通」より上だけど「とても」でもない 【ふかわ】「おもしろかったです」では足りない何かがあるのでしょうか。あれって「普通に」って言っておきながら、普通より上のレベルのときなんですよね。「とても」でもない。「普通に」が別のステージ、新たなフェーズに入ったような気がします。 【川添】あれは「おいしくないかも」「おもしろくないかも」といった否定から入ったから、「意外とよかった」という意味も含めた「普通においしい」「普通におもしろい」という褒め言葉になっているんですかね? 【ふかわ】それもあると思います。だけど、音として伝わってしまうと、それが意味をもたなくなることがあるじゃないですか。今の「普通においしい」の「普通に」はそれほど意味をもっていないと思うんですよ。それがスタンダードになってしまっていて。 【川添】意味合いより、もう「響き」になってしまっている。 ■「エモい」が同義語の中で生き残った理由 【ふかわ】はい。やはり、そういうフェーズに入るには、使う側の心情と相性がいいんだと思うんです。たとえば「エモい」も今はスタンダードになっているけど、同じような意味合いの言葉はこれまでもあったじゃないですか。 それらの多くが使われなくなり、消えていく中で「エモい」が生き残り、スタンダードにまで上り詰めたのは相性のよさ。時代と、若者たちの感情のマリアージュで生まれた言葉だと思うんですよ。 【川添】「エモい」という響きが、時代にフィットしたんでしょうね。 【ふかわ】「エモい」の価値が上昇したのだと思います。なおかつ、「普通に」もそうですが、ここでも断定を避けている気がするんです。 【川添】「普通に」にしても「エモい」にしても、あと、「界隈」(※)も、それが表す状況に幅がありますよね。相手がどう捉えるかは予測しづらいけれど、広い状況で使える無難な言葉とも言えますね。 【ふかわ】そう、無難! 否定されにくい表現なんです。 ※界隈:「○○界隈」と、ある特定のコミュニティ、そこに属する人々を指す言葉。中でも「風呂キャンセル界隈」は若い女性を中心に浸透。「風呂に入るのが面倒」「週に2回しか入らない」という本来不衛生な事象をポップな印象に薄めるからか、女性アイドルなどが続々カミングアウトする事態に。 ---------- ふかわ りょう お笑い芸人、エッセイスト 慶応大学在学中の1994年にデビューし、長髪に白いヘアバンドの独特な装いでリズムに乗ってつぶやく“シュール”な一言ネタ、あるあるネタが人気に。2000年スタートの「内村プロデュース」(テレビ朝日系)では初期からレギュラーを務めており、リアクション芸人の一面も。そのほか「5時に夢中!」(TOKYO MX)のMCや、執筆活動などでマルチな才能を発揮。ピアノを得意とするなどミュージシャンとしての顔も広く知られ、ROCKETMANやryofukawaといった名義で長く活動している。 ---------- ---------- 川添 愛(かわぞえ・あい) 言語学者 1973年生まれ。九州大学文学部卒業、同大大学院にて博士(文学)取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。専門は言語学、自然言語処理。現在は作家としても活動している。主な著書に『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』(朝日出版社)、『ふだん使いの言語学』(新潮選書)、『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマ―新書)、『言語学バーリ・トゥードRound 2 :言語版 SASUKEに挑む』(東京大学出版会)など。 ----------
お笑い芸人、エッセイスト ふかわ りょう、言語学者 川添 愛