「キャッチャー姿」の五月人形、なぜ? 人形師・中村弘峰さんがアスリートを選んだ理由
伝統と現代性が融合した作品で、国内外で注目を集めている人形師がいる。中村人形四代目の中村弘峰さんだ。革新的な作品は、いかにして生まれるのか。AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号より。 中村人形四代目 中村弘峰さんの2025's My Trendはこちら * * * 100年以上続く博多人形師の家に生まれた中村弘峰さん。伝統と現代性が見事に調和した作品で国内外問わず高い評価を受けている。2023年はニューヨークで陶芸家の古賀崇洋さんと2人展、24年は台湾、ベネチア、マイアミなど海外で作品が紹介される機会も多かった。 「イギリスや中国など伝統文化が身の回りにある国の方は、伝統と革新というテーマが非言語でもすぐわかるようで、作品が受け入れられるしリスペクトも強い。逆にアメリカでは少しチューニングを変えなければならないので面白いし、すごく勉強になります」 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了後、父で博多人形師の中村信喬さんに師事。代々異なる作風を特徴とする「中村人形」の世界で独自の境地を切り開いてきた。 「もしも江戸時代の人形師が現代にタイムスリップしたら何を作るかというのが、自分の設定としてあるんです。この世界を人形の世界に全部移行したいんですよね」 アスリートの姿をした五月人形はもともと自身の息子のために制作した。五月人形は英雄を模るものである。江戸時代の人形師ならきっと現代の英雄として、アスリートを選ぶのではないか。では種目は何か? 「野球って、清原(和博)だったら『とんぼ』が流れたりして、登場シーンがすごいじゃないですか。で、先攻後攻が源平の合戦みたい。『いやいや、我こそは』というのが日本的だなと思って、五月人形に合うなと」 ■ゴジラは「霊獣」 モチーフ選びは「囲碁みたいなもの」だという。例えばアスリートなら、野球、ラグビー、プロレスと碁石を打っていくと、その石と石をつないだ面が浮かび上がってくる。きっとサッカーやバスケットボールもこの世界にはあるのだろうと想像できる。そこからちょっと距離を置いて、今度は名もなき英雄としてのレスキュー隊、工事現場の作業員……。囲碁で勢力圏を獲得していくように、中村さんの世界も自由に広がっていく。