「キャッチャー姿」の五月人形、なぜ? 人形師・中村弘峰さんがアスリートを選んだ理由
「作品を作る時って、車の運転みたいな感じなんですよ。人形の資料集めの時は文字情報が入ってくるのでそうではないんですが、粘土で原型を作ったりする作業は、車の運転のように、半分自動的に手が動く感じなんです。インプットとアウトプットが同時にできる。そういう時はずっとオーディブルとかラジオを聴いています」 しかし、作品に命を吹き込む、目を入れる時だけは儀式のようなものがあるという。 「まだ暗いうち、明け方にやります。藝大の同級生が作ってくれた硯を洗って、仲間の気持ちも一緒に込める。そうすると、何かパワーがストンと入る感じがします」 23年は東宝との企画でゴジラ70周年記念「追憶の呉爾羅」を制作した。平成ゴジラ世代の中村さんにとって「タイムスリップして小学生の俺に教えてあげたいくらい嬉しかった」という。 「ゴジラって映画ごとに形が違うじゃないですか。だから多分、鳳凰とか麒麟みたいな霊獣なんだなと。ゴジラは戦後の原爆とか、放射能、敗戦、そういったいろんな感情や畏怖がないまぜになって生まれた霊獣。ならば、僕が作ることも許されるのかなと思いました。僕の作品でグリーンアイズシリーズというものがあります。目が緑の動物たちに『自然が人間の行いを見ている』というメッセージを込めています。それを東宝さんに説明したら、ゴジラとすごい親和性がありますねって」 23年に制作したゴジラはキングギドラやモスラなど、歴代怪獣14体が柄に入った豪華絢爛なものだった。しかし今回、自分が所有するために墨と金だけの「霊獣呉爾羅」を作った。 「今は戦争も多いし、人間の感情みたいなものを形にしたらゴジラになる、というものを作ってみたかった。本当に現代の霊獣としての、忘れてはいけないものをこのゴジラに込めました」 「人形は『人』の祈りを『形』にしたもの」と中村さんが常々語っている、まさにその通りのものが生み出された。(ライター・濱野奈美子) ※AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号より抜粋
濱野奈美子