矢沢永吉が缶コーヒー片手に「まいったなあ…」、CMが話題となりサントリー「BOSS」が異例の大ヒット、1992年8月27日発売【食品産業あの日あの時】
「ボス、やめておいた方が良いと思います。」「イメージに合いません!」 矢沢のもとに『サントリー缶コーヒーBOSS』CM出演オファーがあった時、事務所の人間の殆どが難色を示していた中、矢沢だけが「面白いじゃない、やろうよ」と鶴の一声。(引用:矢沢永吉公式サイトより)
今年の8月で32周年を迎えるサントリーの飲料ブランド「BOSS」。当初缶コーヒーのみだったラインアップは現在ペットボトルや濃縮タイプ、さらには紅茶や抹茶ラテ、ソイラテ、フルーツオレまで広がっているが、「働く人の相棒」というコンセプトを守りながら進化を続けている。 冒頭で引用したエピソードは、ブランド誕生当時のCMキャラクター、矢沢永吉さん(当時42歳、以下敬称略)がCM出演を引き受けた際のものだ。かつて「コカ・コーラ」のCMで「THIS IS A SONG FOR COCA-COLA」を歌っていた(1980年)矢沢は、そのCMソングのヒットが理由で、NHKはもちろん、競合他社が提供する民放の歌番組でもこの曲を披露できなかったという過去を持つ。 以来テレビでめったに見ることのなかった伝説のロックスターが、ある日突然、ライバルメーカーの缶コーヒーを片手に「まいったなあ…」とつぶやく冴えないサラリーマンとしてお茶の間に現れたのだから、その印象は鮮烈だった。 サントリーは1976年に缶コーヒー市場に参入したものの、長らく試行錯誤を続けた。1987年にはサントリーフーズ(現サントリー食品インターナショナル)の掲げた「自販機10万台設置計画」の主力商品として缶入りコーヒー「ウエスト」を発売。ブランド名には、当時圧倒的な存在感を誇った「ジョージア」(日本コカ・コーラ)に対抗するという意味もあったようだ(米国コカ・コーラの本社があるジョージア州は東海岸に位置する)。 バブル期らしくCMにはアーノルド・シュワルツェネッガーを起用するなど華々しい立ち上げを図ったが、直後に経営陣の失言や昭和天皇の病状悪化による広告活動の自粛もあり、強固な自販機網を持つ「ジョージア」や「ポッカコーヒー」「ダイドーブレンドコーヒー」といったブランドの一角を崩すまでには至らなかった。 こうして缶コーヒー戦略の練り直しを迫られた同社は、いまいちど消費者が缶コーヒーに求めるものは何かを徹底調査。1000種以上の試作を繰り返し、導き出されたのが「外回りの営業マン、タクシーやトラックのドライバー、工員・職人などの現場労務職といったコアユーザーが、仕事の合間に一服するときの“相棒”」(「BOSS」30周年記念サイトより)という商品コンセプトだった。 前述の矢沢永吉のCMも、1日に3本以上缶コーヒーを飲むコアユーザーたちの気持ちに寄り添うブランドメッセージを伝えるためのものだった。東京・大阪でのテスト販売を経て1992年8月に全国発売されると、CMの話題性もあいまって大ヒット。当時の日経産業新聞によれば同年末までに約1000万ケース(3億本)を売り上げたという。 同社が2017年4月に発売したペットボトルコーヒー「クラフトボス」ですら発売後10カ月で1000万ケースというから、流通事情の異なる90年代当時としては異例といえる大当たりだろう。 ところで「BOSS」といえば必ず思い出されるのが、ロゴを大きくあしらった「ボスジャン」だ。1993年に企画されたオープン懸賞の特賞として2万人にプレゼントされたMA-1タイプの「ボスジャン」は好評を博し、翌1994年の第二弾に当選者1万人に対して923万件の応募が寄せられたという。 「BOSS」ブランド25周年の2017年にはサントリー自らが初代「ボスジャン」の持ち主を探すキャンペーンも話題となった。ちなみにこのとき発見された初代「ボスジャン」は現在、同社の自社焙煎工場「サントリーコーヒーロースタリー」(神奈川県海老名市)に展示されている。 今年6月、サントリーは新たに「クラフトボス トロピカルティー」を発売した。果汁15%を使用した紅茶飲料だ。缶でもなければコーヒーでもないが、サントリーによれば「クラフトボス」は“現代の働く人を快適にする新しい相棒”という位置づけ。 ティーシリーズは「コーヒーだけでは働く人が抱える課題を解決できないのでは…?」(同社サイトより)という問題意識から開発が始まったという。職場のダイバーシティ(多様性)の重要性を先取りしたはサントリーならではの商品開発…の反面、矢沢永吉演じるサラリーマンは、心の中で「まいったなあ…」と呟いていそうでもある。
食品産業新聞社
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