コロナ禍で停滞、危機に瀕する小児心臓移植――患者と家族の苦悩
ただ、病院がEXCORを増やすのは簡単ではない。EXCORの駆動装置本体は1台約3700万円かかるうえ、患者にEXCORの装着手術をして病院が得る診療報酬よりポンプなどの部品代の方が高額だ。つまり、装着手術を行った時点では病院側が大きな赤字になる。 金銭面だけではない。EXCORを装着した患者のケアには多くの人手が必要だ。福嶌医師は続ける。 「チューブが体から出ているので出血や感染の危険があり、毎日の消毒も、24時間の見守りも必要ですし、臨床工学技士や精神的なケアを担うチャイルド・ライフ・スペシャリストなどもかかわります。何とか台数を増やせないか考えている医師は多いけれど、そのぶん負担も増すので、どこの病院も限界です」
コロナ禍、不透明な状況が家族を悩ませる
かなこさんは涙ながらにこう話す。 「いつ何が起こるかわからない状態で移植を待つのはつらいです。事故のニュースを見ると、つい反射的に『(被害者からの)移植が進むかも』と考えてしまう。本当はそんなこと望みたくないのに、そう思ってしまう自分がものすごくイヤです」
EXCORを装着できれば、今よりも冷静に移植を待つことができる。集中治療室から一般病床に移ることもできるため、こたろう君と一緒に過ごす時間は格段に増える。ただ、台数が限られるなかで「EXCORを使いたい」と望むことさえも、かなこさんの苦悩を深める。 6月、関西の病院で1年ぶりの小児心臓移植があり、EXCORに空きが出た。かなこさんは転院も視野にその病院を訪れたという。だが、その病院にもEXCORの使用が望ましい小児が入院していた。「なんとかこたろうに」と思ったあと、自己嫌悪に陥った。 「こたろうが空いたEXCORを使ったら、もともと入院していたその子は使えずに集中治療室から出られないし、家族も不安な日々が続きます。なのに、他の子を押しのけてこたろうに、と思ってしまったんです。誰も傷つけない形でEXCORを使うことができ、落ち着いて移植を待つことが今の願いです」