コロナ禍で停滞、危機に瀕する小児心臓移植――患者と家族の苦悩
ドイツのベルリンハート社が開発するEXCORは、乳幼児にも使用できる世界唯一の小児用補助人工心臓システムだ。欧米では1990年代から使われてきたが、日本では導入が遅れ、2015年になってようやく販売が承認された。 最大の特徴は、心臓と大動脈の間につなぐ血液ポンプが体重3キロ程度の乳児にも対応することだ。国内販売を担うカルディオの澤田眞一さんは言う。
「大人用のポンプでは送り出される血液の量が多すぎ、小児には大きな負担です。一方、小さくすると血栓ができやすくなる。EXCORは技術的な工夫で血栓ができにくい、小さなポンプを実現しました。また6サイズあるので、患者の成長に合わせて取り換えることもできます」
福嶌医師は、小児患者がEXCORを使うメリットをこう話す。 「機械は高額ですが、薬物治療では延命が難しい重症心不全の小児が、1年以上生きられます。3年近く装着していた小児もいる。移植までの待機期間をかなり安全に過ごせるんです。さらに、病院にもよりますが集中治療室を出られるので家族も面会しやすく、散歩もできるようになります。また、血液循環が改善されると体に栄養が行きわたり、体重が増える。すると、移植の可能性も高まるんです」 小児の場合、移植できる心臓は自身の体重の「3倍」のドナーのものまでとされる。体重5キロならば提供を受けられるドナーの体重は15キロまでだが、体重10キロになれば30キロのドナーからも提供を受けられる。チャンスが広がるのだ。
補助人工心臓は不足している
日本心臓移植研究会のまとめによると、国内では2020年までに80人がEXCORを装着した。うち32人が移植を受け、別の16人は心機能が回復してEXCORを離脱した。治療成績は「かなりよい」という。 だが、前述のようにコロナ禍で移植手術が止まり、患者の待機期間が延びることで、EXCORが不足する事態になっている。 国内のEXCORは12施設に計四十数台ある。ただし、万一の故障に備えた予備も含まれるため、実際に使用できるのは30台弱だ。福嶌医師がいる国立循環器病研究センターは国内最多規模の8台を所有し、6台を患者用としているが、すべて使用中で空きはない。 他施設もほぼ同様の状況だ。こたろう君の入院先には4台あるが、患者が使用できるのは3台で、1台はバックアップ用になっている。こたろう君は本来、すぐにEXCORにつながなければならない状態だが、空きがないので、代わりに遠心ポンプという装置が使われている。しかし、この装置をこたろう君のような小児に使用するのはリスクが高い。福嶌医師は一般論としてこう解説する。 「遠心ポンプは本来、手術の際などに一時的に使うもので、補助人工心臓用に認められたものはありません。血を抜いたり送りこんだりするチューブも10時間程度の手術を想定していて、月単位で使用したときの安全性は保証がない。さらに、遠心ポンプを血液量の少ない小児に使うと血液がよどみ、血栓ができやすくなります。それが脳に運ばれると脳梗塞を引き起こしますし、子どもは頭の血管が弱いため、脳出血のリスクも高い。本来使うべきではないけれど、他に選択肢がないのが実情です」