コロナ禍で停滞、危機に瀕する小児心臓移植――患者と家族の苦悩
昨年4月以降、厚生労働省は不急の手術や入院は延期を検討するよう通知しつつ、「必要な手術は制限しない」としてきた。臓器移植はまさに必要な手術だが、移植手術はドナーから臓器が提供されて初めて実施できる。コロナ禍で脳死判定や摘出手術が減り、必然的に移植手術も減ってしまったのだ。 福嶌医師によると、今年6月までの1年間、小児の心臓ドナーはひとりも現れなかったという。その後、状況にわずかな変化も見られ、小児心臓移植は6月以降に4例実施されている。福嶌医師は続ける。 「新型コロナ第4波と第5波の狭間の救急医療現場が落ち着いたタイミングでドナーになってくださる方が現れて、一時的に移植手術が行われました。ただ、8月以降にコロナの重症患者が急増し、再び移植は困難な状況になっています」
補助人工心臓EXCORという「希望」
苦境に立たされる小児心臓移植だが、コロナ禍の前は進展していた。 かつての臓器移植法では、臓器提供には「本人の書面での意思表示と家族の承諾が必要」と定められていた。意思表示が有効なのは民法上の遺言の規定にならって15歳以上で、15歳未満はドナーになれなかった。 15歳以上の人の臓器を小さな子どもに移植するのは体格差などから困難で、心臓に重い病気を抱える子どもは海外で移植を受けるしか方法がなかった。海外での移植には億単位の費用がかかるほか、飛行機での移動による体への負担も大きい。家族への激しい誹謗中傷も一部で見られた。 しかし2010年、本人の意思がわからなくても家族の同意で移植できるようにする改正法が施行され、小児から小児への移植に道が開かれた。2019年には、10歳未満の7例を含む17人の小児が心臓移植を受けるまでになっている。
臓器移植法改正にも尽力した福嶌医師は言う。 「実は、法改正された後もしばらく、移植は少なかった。脳死になった小児のご家族に対して、『静かに最期のときを過ごしてほしい』と考える小児救急医が多かったからです。しかし、小児臓器移植に関わった医師が全国を行脚するなどして、他の医師の意識も変わってきました。多くの医師が『臓器提供』の選択肢を提示してくれるようになり、移植数も増えてきました」 心臓移植を待つ15歳未満の小児は20年6月時点で55人、移植が止まった影響で今年6月には72人に増えた。年に17例の小児心臓移植が行われても、移植が必要な人数と比べて「十分」ではないが、それでも多くの小児が国内で移植を「待てる」ようになりつつあった。 もうひとつ、心臓移植を待つ小児や家族の「光」になったのが、小児用補助人工心臓「EXCOR(エクスコア)」の導入だった。弱った心臓に代わって血液循環を助けるもので、移植までの待機期間をつなぐ「橋渡し役」となっている。