【#佐藤優のシン世界地図探索84】イスラエルvsイランの『アウトレイジ』的な手打ち
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――10月16日、イスラエルは100機を越える戦闘機を動員して、イランに対して空爆しました。イスラエル空軍はF35Aステルス戦闘機で、イラン防空レーダーと地対空ミサイル陣地を攻撃。続いて、イラン国境手前数十kmから、F15E戦闘爆撃機などで各種長距離ミサイルを発射。地対空ミサイル発射施設、イラン空軍基地、ミサイル製造施設などの軍事目標を数回に分けて精密爆撃をしました。イランはまた報復攻撃をしますか? 佐藤 イランに対してはこれで一応、ケリはつきましたね。イスラエルは軍事目標だけを攻撃しました。だから、これでゲームのルールは確立したわけです。 ――これでお互いにやるのは......。 佐藤 軍事目標でしかやらない。そして、これ以上のことはやらないということです。その範囲での攻撃は今後もあるでしょう。イランの大人の対応で、いまの国際社会の治安は成り立っているというわけです。 ――イランが大人になったのですか? 佐藤 要するに、イランの"サウジ化"です。 ――サウジ化!? それはいったいどういうことですか? 佐藤 サウジアラビアも本来の国家の理念はワッハービズムです。イスラム教スンニ派の一派・ワッハーブ派を国教としています。つまり、ワッハーブの世界を拡げるのがサウジの建前です。 それは、ビン・ラディン、「イスラム国」とも考え方は変わりません。しかし、サウジは国内ではイスラム統治をしていますが、国外にはそれを要求しません。 ――はい、サウジは国内のみイスラムであります。 佐藤 そして、イランもそれと同じく、イスラム革命を輸出しない形になりつつあります。だから、ハマス、ヒズボラ、フーシ派は事実上の切り捨てです。そうすれば、安定するわけですよ。 ――それって、映画『アウトレイジ』そのままじゃないですか。デカいヤクザ組織に切り捨てられた弱小組の組長・大友(北野武)が、暴れ回るストーリーと同じです。 佐藤 本当にそういう感じなんですよ。 ――これ、イスラエルとイランがどこかで和平会議なんかしていたら、大友の名セリフ、「てめえ、破門しといて遊びにくんのか、この野郎。ぶち殺すぞコラァ!!」ってなるじゃないですか。