【SHOGUN 将軍】文化的誤解への不安、言語の壁、コロナ禍での撮影……エミー賞受賞のキャスティングディレクターが語る、快挙までの“険しい”道のり
「エミー賞」で歴代最多となる18冠を受賞した『SHOGUN 将軍』。本作はジェームズ・クラベルが1975年に発表した小説『将軍』を原作としたフィクションで、「徳川家康」をモチーフにした「吉井虎永」を真田広之が演じ、知略と裏切りが行き交う「関ヶ原の戦い前夜」を描いた。 【画像・動画】エミー賞のトロフィーや殺陣の練習風景、場面カット見る
「ウィリアム・アダムス」をモデルとしたイギリス人航海士のジョン・ブラックソーン(のちに三浦按針の名を与えられる)が、日本に漂流したことから始まり、按針が侍文化に翻弄されながらも理解していく様子もつづられる。 外国人の目から見た日本が描写される『将軍』は1980年にも実写ドラマ化され、アメリカ国内で社会現象を起こしたが、台詞の多くが英語で構成されていた。それから44年、「オーセンティックにこだわった」本作は、ディズニー傘下のFXが製作しながらも、台詞の7割が日本語で演じられた。 『SHOGUN 将軍』でキャスティング賞を受賞した川村恵氏は、エミー賞での快挙を「時代が変わってきている証左」だと振り返る。コロナ禍での撮影など困難に見舞われながら、どのように「その時」までたどり着いたのか?(聞き手:嘉島唯)
切腹や芸者の正しい理解を…
――『SHOGUN 将軍』のチームに、川村さんはどのようにして加わったのですか? 私の場合は、2016年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』でキャスティングを担当していたのがきっかけで、お声がけいただきました。 ――脚本を最初に読んだとき、どう思われました? 正直、脚本を読む前は時代考証や文化的な側面も含めて「どんな風に戦国時代を描くのか」と気になっていました。製作総指揮のジャスティン・マークス氏は『トップガン・マーヴェリック』の原案を担当されていましたし、彼の手掛ける作品は私も大好きですが、脚本チームの主要メンバーは欧米人の方々。翻訳作業には日本のプロが関わることは知っていましたが、どこか身構えていたように思います。 ――これまで、日本人が見ると「トンデモジャパン」と言いたくなるような作品は多かったように思います。 日本の文化に興味を持っていただけるのはありがたいので、一概に否定する気はありません。でも今回に限っては、その不安は払拭されました。切腹や芸者のように海外の方が期待するキーワードは登場させながらも、それらを正しく理解できる表現になっていたのではないかと思っています。 ――英語圏のファンからは「『ゲーム・オブ・スローンズ』のようだ」という声も上がっていました。とはいえ、当初の脚本は江戸時代のような描き方だったんだとか。 日本の時代劇は海外から見ると異世界の話のように見えるかもしれませんね。また、侍と聞いたら「江戸時代」を思い浮かべる方は多いと思います。でも、この作品は原作小説にもあるように「戦国時代」。時代が違えば、所作も衣服も文化も異なります。時代考証の先生による監修で脚本はどんどんアップデートされていきました。