【SHOGUN 将軍】文化的誤解への不安、言語の壁、コロナ禍での撮影……エミー賞受賞のキャスティングディレクターが語る、快挙までの“険しい”道のり
俳優・真田広之と対峙できる凄み、女性の描き方に「ようやくここまできたか」
――鞠子役の澤井杏奈さんはオーディションで「入浴シーン」を求められ、困惑したと話されていました。 80年の作品では、鞠子が按針の背中を流すシーンがあり、そこを踏襲したオーディションシーンもありました。結局、脚本が大きく変わり、そのようなシーンはなくなりましたが。 ――本編での鞠子は「男を立てる控えめな女性」ではなく「積極的に進言をする参謀」のようでした。 鞠子は複雑な役です。つらい過去がありながらも悲劇のヒロインでもなく、セクシーでフィジカル的な強さを強調した女性でもありません。知将である虎永に能力をかわれ、信頼されている女性なので、聡明さも必要です。さらに「英語が話せる」程度ではなく「堪能」のレベルまで求められました。 ――澤井さんが話す英語のインタビューを見ると、鞠子の話し方と全然違いますよね。 澤井さんには鞠子のキャラクターについて「これまでの描き方とは違う女性」であることをお伝えし、ご理解いただいたのだと思います。オーディションでも素晴らしいお芝居をしてくださったので、「鞠子がいた!」とアメリカのスタッフ共々喜びました。 ――二階堂ふみさんが演じる落葉の方にも、底しれぬ怖さがありました。女性陣の選び方はどのような方針があったのですか? 落葉は物語がアップデートされていくにつれ、存在感が強くなっていったキャラクターです。 五大老たちを従えた、虎永にとっての宿敵。俳優・真田広之と対峙できる凄みが必要でした。さらに、権力への固執だけが彼女を作り上げているわけではなく、人間的な葛藤もある。二階堂さんは、オーディションの初期の段階から参加してくださっていましたが、落葉が徐々に形作られていくにつれて、彼女が適役だとチーム全体で意見が一致しました。 ――『SHOGUN 将軍』にはステレオタイプな女性はほとんど出てきませんでしたね。 当時の慣習を反映して夫に従う姿勢は見せますが、製作陣は過去の歴史を踏まえながら多様な女性を描きたかったようです。外見だけではなく、人によって性格も立場も生存戦略も違う。女性をステレオタイプに描かず、誰一人として同じように扱わない姿勢は、長年いろいろな作品に携わってきた身からすると「ようやくここまできたか」と感慨深くなりました。