【SHOGUN 将軍】文化的誤解への不安、言語の壁、コロナ禍での撮影……エミー賞受賞のキャスティングディレクターが語る、快挙までの“険しい”道のり
変わりゆくハリウッド
――これまでになかったハリウッド製の時代劇として、エミー賞を受賞した理由はどこにあると思いますか? 作品が素晴らしいことはさておき、真田さんも虎永の台詞を用いて「時は来た」とおっしゃっていますが、タイミングも味方してくれたように思います。コロナ禍で字幕作品を鑑賞することが英語圏の方にも一般化したことは、非常によく作用したと思います。 ――字幕映画を長い間見てきた日本人の一人としては「字幕が普及していない」ことに驚きました。 ハリウッドで作られる映画のほぼすべてが、英語メインの作品ですからね。それがここ数年で、映像配信プラットフォーム上で日本をはじめ多国籍の作品を観られるようになりました。Netflixの『イカゲーム』やアカデミー賞を受賞した『ゴジラ-1.0』のヒットはその好事例だと思います。 先日、アメリカ人の友人が「母がテレビで『SHOGUN 将軍』を見て衝撃を受けていた」と話してくれました。「日常的に映画を観ない母が、字幕作品に夢中になって『早く続きが観たい』と言うなんて……」と教えてくれたので、アメリカの一般家庭の方々にも字幕作品が普及しているんだなと実感できました。 ――日本語が求められるシーンは増えてきたと感じますか? 最近は、役柄と人種や国籍がマッチしないキャスティングは減ってきているように思います。作品によっては「アジア人枠」でキャスティングをすることはありますが、日本人であれば日本の俳優、韓国人であれば韓国の俳優というように、オファーをします。 もちろんSF作品は国籍の枠を超えるので話が変わってきますし、「ウォール街で仕事をしている日本人役」だと、やはり英語は必須だと思います。見る側として「そこで暮らしていけるの?」となりますからね。 ――マークス氏もハリウッドにおける言語の取り扱いについて「日本を描く時『どんな間違いを犯したか』」と話していましたね。 キャスティングもそうですが、字幕に抵抗がなくなってきた状況を踏まえると、国の言語を役に合わせて使うことがより一般化していくように思います。人種や国籍におけるアイデンティティの問題の解決はもちろん、作品におけるリアリティや深みを出せますからね。 ――一部報道では、『SHOGUN 将軍』のシーズン2、3の製作が決まったと言われていますが、もう現場は動き出しているのでしょうか? シーズン1で原作に描かれている内容はすべて撮り切ってしまったので、断言するのは難しいと思います。授賞式の後ハリウッドを回りましたが、今とても静か。ストライキ以降、作品本数はあまり増えていないように感じます。一部の人気シリーズを除いては、新規作品のグリーンライトはなかなか灯らないそうです。ただひとつ言えるのは、時代が確実に変わってきているということ。それを強く感じています。