【SHOGUN 将軍】文化的誤解への不安、言語の壁、コロナ禍での撮影……エミー賞受賞のキャスティングディレクターが語る、快挙までの“険しい”道のり
かつてスコセッシ監督がオーディションの場で言っていたこと
――台詞の7割が日本語というのは、欧米で作られる映像作品としては異例です。当初から決まっていたのですか? 最近こそ日本が舞台になる作品がたくさんありますが、これまで日本語で語られる作品は稀だったと思います。「侍が英語を話す」作品や日本人役を「日本人ではない方」が演じることが多くありました。 一方で『SHOGUN 将軍』は字幕をふんだんに使う方針だと最初から決まっていました。戦国時代の日本が舞台なので外国語で会話するのは不自然ですし、物語自体が「通訳行為」を描くものだったことも、理由のひとつだと思います。 細川ガラシャをモチーフにした鞠子は通訳を担う役なので別ですが、ほとんどの役で「堪能な英語力」は条件ではありませんでした。出演してくださった俳優陣は皆、演技力で選ばれた方々です。オーディションは、妥協せずに俳優を選ぶためにトータルで4年近くかかりました。 ――日本国内向け作品と『SHOGUN 将軍』のような作品とで、キャスティングの基準で違う点はありますか? 日本国内でどれだけ人気があっても海外でも知られている俳優はごくわずか。海外作品の場合は「有名・無名は全く関係ない」とはっきり言われますし、だからこそやりがいもあり、難しくもあります。 ――物語のキーマンである樫木薮重を演じた浅野忠信さんは、脚本をとにかく読み込んだとインタビューでおっしゃっていました。薮重は『沈黙 -サイレンス-』のキチジローのような役で、目が離せませんでした。 まさに、キチジローのように最も人間臭く物語の鍵を握る存在でした。威厳だけでなく、滑稽さも表現しなくてはいけない。難しい芝居が求められるキャラクターです。 ハリウッドでは、脚本を深く読み込み、それをいかに表現できるかが最も重視され、俳優に求められます。海外を目指すとなると「英語力をあげなくては」とまっさきに考えてしまいがちですが、脚本の読解力をあげるために、まず国語力を鍛えるべきだと思います。『沈黙 -サイレンス-』の際も、スコセッシ監督が「英語力よりも、演技力を見ている」とおっしゃっていました。 ――オーディションでは、どのようなことをするのでしょうか? コロナ禍だったので対面審査も難しかったと思います。 『SHOGUN 将軍』の場合、最初は課題のシーンを自分で撮影する「セルフテープ」を提出していただきました。指示が何もない環境で、自分で演出、撮影をする審査なので、脚本への理解度や表現力などが求められます。気になった俳優には撮り直しの依頼や、オンライン上での面接をすることもありました。