「どうしてわかってくれないの?」パートナーとの関係性に「苦しい」と思ったら、するべきこと
自分の心の奥底にあるメンタルモデルに目を向ける
――関係性がこじれ、どんどん恨みや悔しさなどが募っている時、まずはどんなことができるのでしょう。 岩田「自分がどんな『べき論』に囚われているかに気づくワークを実践することがおすすめです。『◯◯すべき』という思いを持ち過ぎていると、他者も自分も受容することができなくなっていきます。たとえば、“ご飯は残さず全部食べるべきだ”と思っていたら、料理を残されたら頭にきます。“私が家事をしていたら夫もソファーに座らず一緒にすべきだ”と感じていたら、夫が動かないことにイライラします。子どもに対しても同様で、“休みの日はゲームは1時間にすべきだ”“早寝早起きをさせるべきだ”といった『べき論』を色々と持っていると思います。 その『べき論』を書き出していくと、“私はこんなにたくさんの『◯◯すべき』を持っていたのか”と気がつきます。そして、たくさんの『◯◯すべき』は本来は人生を豊かにするために持っていたはずなのに、実はすごく自分を窮屈にして首を絞めていると気がつきます。そこに目が向いたら“持ち続ける『◯◯すべき』”なのか、“捨てた方がラクになる『◯◯すべき』”なのかを精査していきます。これは自分を緩ませて、幸せに近づく方法の1つです」 下向「SELでいう自身の『メンタルモデル』に気づく取り組みだと感じました。『メンタルモデル』とは、人が無意識のうちに持っている思い込みや思考のことを指します。下記の図のとおり、実際に起こる『出来事』は氷山の一角、ほんの一部分にすぎません。その下には、『パターン』『構造』『メンタルモデル』があり、最下層に本当はどうしたいのかという『ニーズ』が潜んでいます。 例えば、“夫に『食器洗いくらいして!』とキツイ口調で文句を言った”という『出来事』があるとします。氷山を掘り下げると『パターン』として、“特に疲れて帰ってきたときには、配慮してくれない夫に対して厳しい口調になる”という繰り返しが起きていることに気づきます。さらに掘り下げると『構造』として、“木曜日はストレスのたまる会議があって特にヘトヘトになる”“夫婦で仕事の話をシェアしないので、妻がどれほど疲れているのかを夫が理解していない”といったことが見えてきます。そして、その下の『メンタルモデル』にたどり着くと、“一緒に暮らしているのだから、言わなくてもわかるはずだ”“同じように外で働いたら同じように家事を負担すべきだ”“毎日食器洗いはすべきだ”といった考えがあることに気がつきます。 こういった具合に、自分の『メンタルモデル』を掘り下げていくと、知らないうちに抱いている思い込みにたどり着くのです。その後、『ニーズ』として“どうなっていきたいのか”を考えます。“週の半分は食器洗いをしてほしい”という思いに辿り着いたのならば、夫と一緒にその仕組みを作ります。もしくは、“木曜日は外食にする”“食器洗いは翌日まで持ち越してもOK”“食洗機の導入”といった解決策も考えられるでしょう」 岩田「誰もが顕在化していない思いを持っています。解決に向かっていくには、まずはそれを立ち止まって捉えていくことが大切ですよね」 下向「そう思います。望んでないのに繰り返し起きてしまうことに対しては、自分が持っているメンタルモデルが影響している可能性が高いです。岩田さんのおっしゃる『べき論』もその一つですよね。なぜエラーが起きるのかに気づき、構造的に解決していくことがとても重要だと思います。 解決に向けた道筋が明確に見えていないと、前に進みづらいです。人は同じ状態でいる方がラクなので、『メンタルモデル』にはまっている引力の方がずっと強く働くからです」 岩田「気付いた後、その先にある改善の道を進める人はすごく強い人だと思います。向き合うことは、ある程度の余白がないとできません。転職でも離婚でも、“現状から抜け出す”という行為はエネルギーがとても必要ですよね。走り続けている多忙な状態では、どうしてもそのエネルギーが湧いてこない。だから、“今日の1時間はワークをする”など強制的に止まる時間を作っていくことが必要だと思うのです」 下向「『メンタルモデル』を掘り下げていく行為では、見たくないものを見ることになるので、そこには相応の決意とエネルギーが必要になりますよね。それに、対症療法的に一部分だけにフォーカスを当てるのではなく、『全体像』を見ることも必要です。私も日常に追われてしまいがちですが、きちんと時間を取って向き合うことが大事だと痛感しています」