寝たきりでも仕事ができる時代へ―分身ロボットが作り出す“役割”と“居場所”
今の時代、“我慢弱い”ことは武器になる
――人生の困難に直面したとき、「我慢する」という精神論に頼る考え方もあります。 吉藤オリィ: 昔は我慢することが美徳だとする時代でした。例えば桃太郎の話に登場するおばあさんは、川で洗濯をしているから手が冷たい。でも、昔は「手が冷たい」と言うと「我慢しなさい」と言われる時代でした。今の時代だったら真っ先に「洗濯機を使おう」と言われると思うんです。洗濯機を使えば、自動で効率よく洗濯できる。手が冷たくて洗濯が大変だった時代は洗濯機で様変わりした。つまり、現代において我慢弱いことは新しい発想を生み出す強みになるんです。 我慢強いと不条理なことにも適合してしまって、その結果、もっと楽な方法を探す努力をしなくなってしまいます。むしろ、我慢弱くてできないことがあることが武器になる時代だと思っています。 ――ご自身の体験からもそう思われた? 吉藤オリィ: 私自身、一人でできないことが多くて我慢弱すぎたんです。知らない人に話しかけるのも嫌だし、事務的なことがとにかく嫌で、郵便物を送ることも苦手。なんで苦手なのか分からないけど、苦手なんですよね。小学校のときはじっとしていることができなくて、我慢弱いがゆえに本能で校庭に走って逃げてしまって、先生が全速力で追いかけてくるといったこともあって問題児扱いされていました。 でも、他の人と同じようになんとか我慢しなきゃと思うと、同じようなパフォーマンスを発揮できない。そういうときに他の選択肢があってもいいじゃないかと思ったんです。事実、それが自分自身のモチベーションにもなって、分身ロボットの開発につながりましたからね。 ----- 吉藤オリィ(吉藤健太朗) 奈良県葛城市出身。小学5年~中学3年まで不登校を経験。高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。2005年Intel International Science and Engineering Fairに日本代表として出場しGrand Award 3rd を受賞。高専で人工知能を研究した後、早稲田大学にて2009年から孤独解消を目的とした分身ロボットの研究開発を独自のアプローチで取り組み、2012年株式会社オリィ研究所を設立。 文・姫野桂 制作協力・Viibar